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なんで俺がこんな目にあわなきゃなんねぇんだ。
「イヤだ」
『イヤってアンタねぇ…しょうがないでしょ?』
「イヤなもんはイヤだ」
『楓。恥ずかしいのは分かるけど預かってる間はちゃんと面倒見てあげて』
「…………」
恥ずかしいとかそう言うんじゃ…
『あ、じゃあ夏樹ちゃんにお母さんから電話して頼んであげようか?ほら、幼なじみの』
何でそこで水無瀬の名前が出てくんだよ…。幼なじみの水無瀬んちと俺んちは、昔から何かと交流がある。家も近いし風香の面倒を見てくれたら助かるし俺は救われる。けど……。
「大人に頼めば…」
『んー…じゃあ夏樹ちゃんのお母さんに頼んでみるわ。迷惑かけちゃうけど』
俺も十分迷惑してんだけど。
「…分かった」
電話を切ってから俺は、風香の泣き声を背後に浴びながらリビングを後にした。先に風呂入っとかねーとややこしいし。
俺がシャワーを浴びてる時に家の電話が鳴った。けど出られない俺は仕方なくそれを放置した。しばらくして鳴りやんだけど、俺が風呂から上がったら今度はインターホンが鳴った。
「はぁ…」
たぶん水無瀬の母さんが来たんだろうなとは思う。助かったとは思うもんの、また面倒な挨拶をしなきゃなんねーと思うと溜め息がもれた。
俺は急いで着替えて、バスタオルで髪の水滴をワシワシと拭き取りながら玄関に向かった。風香がいねぇなと思ってたら…
「おい…何してんだ」
「よっ楓!ってアンタ風呂入ってたの?!」
「待て。質問」
「なんでございましょうか」
「なんでお前がいる?」
なんで水無瀬が来てんだ。風香は水無瀬の前に立っていた。お前が入れたのか…。本気で勘弁してほしい。
「はっ!楓くんのお母様に頼まれたのであります大佐!!」
はぁ…やられた。
「何その人を心底バカにしたような冷めた目付きは!!ねぇ風香ちゃん。このお兄ちゃん怖いねぇ?」
バカにしてんじゃねぇ。哀れんでんだ。風香は俺を見上げてくる。
「お兄ちゃん優しいよ」
「え!!嘘。じゃあなに?私には冷たいくせに風香ちゃんには優しいんかいアンタは」
「とりあえず上がれば。湯冷めする」
俺が。
いつもズカズカと自分んちみてぇに入ってくるくせに何遠慮してんのか知らねぇけど。
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