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細々とした挨拶の後、叔母さんが俺に子供を預けて出て行こうとした時。俺はその子供の声を初めて聞いた。声、というより奇声に近い喚き声を。叔母さんはひたすらその子供にごめんねごめんねを繰り返していたが、その子供は一向に泣き止まずに叔母さんにしがみついていた。

母親と離れるのが不安なんだろう。しかも初めて見る男に初めての環境の中閉じ込められたんじゃ喚き散らしたくなる気持ちもよく分かる。

叔母さんは最後には無理やり引き剥がし、扉を閉めた。酷く辛そうな顔をしていた。



俺に背を向けたまま、閉まってしまった扉をじっと見つめてグスグスと鼻を鳴らして泣いている。

で、どーすんだ…。

子守りなんざしたことねぇ。俺がガキの頃もこうして親を困らせたりしたんだろうか。ふとそんなことを思う。俺には年の離れた姉貴が一人いるが、今は嫁に行ってうちにはいない。もし姉貴がいたら…。この子供にとっても姉貴に面倒見てもらったほうがどれだけ良かっただろうかと思う。

「とりあえず…ここにいてもしょうがねぇ……」

俺は出来るだけ低く屈んで、子供のワンピースの背中の部分をつまんで、チョイチョイと引いてみた。


「あー…名前…」

なんつったっけ。
床に子供のリュックと一緒に転がっている麦わら帽子の裏を見てみる。やっぱり書いてあった。

「風香、」


俺が名前を呼ぶと、風香は小さく反応し、くるりと振り返った。視線が低すぎて気付かなかったが、叔母さんに良く似て色白で、目が丸くて色素の薄い瞳をしていた。二つに結ばれた先のリボンは、ワンピースの布地と同じ色だった。叔母さんの手作りなんだろう。



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あきゅろす。
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