[3]
私には分からない。三井が私にしつこく構うわけ。全てをシャットアウトした両腕をつかむわけ。その腕を引き剥がそうとするわけ。
目があって、私は臆病なうさぎにでもなってしまったみたいに、固まって、小さく震えて、押し黙るしかなかった。捕まれた腕がひどく熱い。けどもね
「ちょっと三井。あんたさ…強気な態度の割りにさ…。あんたも完熟トマトみたいに真っ赤だけど」
私も勿論リンゴ並みに赤いんだろうけど。こいつだって赤い。
「……ちょっと黙ってろ」
「な、なに」
怖!目が血走ってない?!なんか息遣い荒くなってない?
「ゴホッ。…俺は、」
「…………うん」
手、痛い。
「………水無瀬が好きだ」
「う、うん」
少し間の空いた沈黙。
「うん……だ…?うんってか?
そんだけかよ?俺、今お前に告ってんだけど…」
「あ…ご、ごめん…けど、たぶんそんな風なこと言われるんじゃないかと……思っ」
言い終わる前に捕まれた腕を引かれてそのまま。三井の鼓動がバカみたいにでかくて早くて直接私の体を駆け巡る。
「俺、今キンチョーしてんだよ。だから今のは嘘じゃねぇ」
「う、うん…」
私、今こんなことしてる場合じゃないのに。こんな時間に教室で三井に抱き締められてる場合じゃないのに。グラマーのノートやらなきゃ。けど、もう動けない。
「お前イヤじゃねぇの?抱きつかれて」
「うん」
「汗臭いだろ」
「うん」
「ほっとけ」
「うん」
「おいコラ。おちょくってんのか」
「うん…」
三井は私を解放した。
「…俺のこと、好きなんだろ?お前も」
「ううん」
「そこだけ否定かよ!!」
三井はチッって舌打ちしてから赤い顔を反らしてしまった。私から離れて、自分の席のほうへ背中向けて歩いてって。
その姿がしょんぼりと、すごく寂しそうで悔しそうだったから。ああ、ほんとに私のこと好きなんだって思った。
「んだよ…。告り損かよ。言うんじゃなかったぜ」
三井は私に裸の背中を向けたまま、身支度をし始めた。スクールバッグの中から制服を取り出して。
三井が言ってくんなきゃ私の気持ちは動かなかったのに。せっかく三井が気付かせてくれたのに。私は応えられなかった。
三井があともうひと押ししてくれたら、私もぶち壊せたかも知れないのに。
平穏な日常を。もう一回だけ、チャンスを頂戴よ。お願い。
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