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「ああ、いいのいいの優子ちゃん。こいつバカぢからしか取り柄ないから」
「るせーなさっさと運べタコ」
へいへい!!
三井は段ボール二個をやっぱり軽く持って、すでに数歩先をズンズン歩く。その後を優子ちゃんが重ねたノートを慎重に運んで、私は二人の背中を段ボール必死に持って付いていって。
三井が階段を登り始めた時だった。優子ちゃんが短く声を上げてノートを廊下にばら蒔いてしまったのは。バサバサと崩れる音に三井も気付いて足を止める。
「ごめん…落とさないように気をつけたんだけど…」
「優子ちゃん大丈夫?」
慌ててノートを拾う優子ちゃんの助けに入る私。
「ほら三井。あんたも手伝ってよ」
「おー……」
背の高い三井が優子ちゃんの隣にしゃがんで、気楽にも口笛を吹きながらノートをまた積み直す。自分が運んできた段ボール二個の上に。
「岡島、半分持てよ?」
「え、けど三井くんそれじゃ重いよ」
「大して変わんねぇって」
なんか。なんか。
チクリと痛んだ。
私は段ボール一個持ってるのに。
私だって重いのにさ。
優子ちゃんはそんなに優遇するくせに。
私には声すらかけないで。
あの日の放課後。私を教室で抱きしめた腕は、男で。すごく逞しくてドキドキしたのに。それがこんな肝心な時に活かせないようなアンタはやっぱりアホ菌三井だよ。
アンタは女を差別したりしないと思ってた。どっかで。
けどやっぱ三井だって可愛い子には優しいんじゃん。
私は可愛くないから…優しくないんじゃん。
なんだ、簡単な話だったんだ。
うちらがよく喧嘩する理由。
私が可愛くないから。
視界がグラグラ歪んで、このままじゃ泣くって思ったから慌てて俯いて、その場にしゃがみこんだ。
「あー悪い。岡島、お前ソレ持って先に教室戻ってて」
「んー?分かった」
たぶん、優子ちゃんは気付いてなかったと思う。ていうか…優子ちゃんは何も悪くないのに。悪いのはいつまでたっても素直になれなくて、三井が私の背中に優しく触れてくれてる今だって。突っ張って顔すらあげられない私が悪いのに。
「悪かったって…」
三井の低い声は、私の頭上に降り注ぐ。そんな優しい声をかけてくれるんならさ…なんで普段からもっとそーやって優しくしてくんないのよ…。
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