[11]年上キラー2
それから二時間の内に、流川君はとうとう睡魔に負けて夢の国へと旅立ってしまったが、ラストに近づいて客もまばらで困りはしない。
それにぐっすりと眠っている流川君の姿を見ていたら可哀想で起こせなかった。机に突っ伏した黒髪。規則的な呼吸は、彼の広い背中をゆっくりと上下させる。そっと手の平をそこに添えると驚く程暖かかった。
「……可愛いんだかカッコいいんだか……ほんと不思議な子」
こんな男、私は知らない。
私の知っている限りの男は、金に蝕まれていたり、平気で嘘をついて女を騙したり、でたらめな台詞で口説いたり、そんな男ばっかりだったから。
本気で……寝ちゃうんだもん。私の隣で。エロDVDに囲まれて。
心地良い時間が過ぎていって、流川君の寝顔を見つめることで二時間は経った。深夜の2時丁度。その間流川君は軽く体勢を変えただけで、結局目を覚ますことはなかった。
私は席を立ち、流川君を残したまま店仕舞いの準備に取りかかる。寝ちゃうんだったら仮眠室に連れてってあげれば良かったな、なんて思いながら。
* * * * * * * *
「流川君っ」
「おーい流川くーん……」
身支度も整って、最後に流川君の両肩をゆらゆらと揺り動かしたが、やっぱり起きなかった。というか完全に寝入ってる。髪に触れ、ワシャワシャと掻き乱そうが起きない。
「置いてくぞー?」
強制的に起こそうと脇腹に両手を忍ばせて、くすぐってみる。効果覿面だったようで、流川君はもぞもぞと身を捩ってついには声に出して笑った。
「やめろ……!」
「起きました?」
「起きた……」
そう言っても気を抜けばまた寝入りそうな流川君の肩をガクガクと大きく揺らす私。片手は自分の荷物と流川君の荷物で塞がっている。
「ほら、立って。帰るよっ。送ってくから」
渋々と上体を反らして伸びをした流川君は、額を掌で擦り、席を立った。立たれると圧倒的な高さになる彼。立ち上がってもまだ眠そうな彼の腕をとって、入り口に向かって歩く。流川君は私に引かれながら背後で大きく欠伸をしていた。
これじゃ子連れの母に見えやしないか...。店内の照明を落とした時だった、背に重みを感じたのは。
「寒い……」
「ちょっと流川君寝惚けないで!」
抱きつかれてしまった……。俯けば流川君の逞しい両腕が、首元に絡みついている。
「もうちょっと我慢したら寝られるから……。ねぇ流川君、このままじゃ動けないんだけど私」
「ダメだ……もう限界……」
それは眠気、だよね...。
抱きついてきたのが流川君じゃなくて井上ちゃんだったら直ぐ様振りほどいているところだ。顔だけを流川君の方に向けたら、眉をしかめて目を閉じる流川君の顔があった。
「ここにいたらずっと寒いでしょ?ね、だから早く行こう?お願いだから起きてっ(重くてほんと動けないっ)、駐車場に着くまでの間だけでいいから!」
私の説得が聞こえたのか彼の腕は私を解放してくれた。背後の流川君をもう一度振り返れば、立ったままスースーと寝息をたてて眠っている。私は流川君の手を握って歩いた。
こんな大きな体を一人で支えることは不可能で、手を引くしかなくてそうしたのだけど。
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