[7]硬派な男の子
「ほんと珍しい名前だね」
私としては誉めたつもりだったけど、本人はあまり嬉しくなかったらしい。そんな顔をした。
「私夏樹。楓ちゃんには名前で呼んで欲しいから名字は教えてあげなーい」
「は」
あれ……。やっと、目が合った。と思ったのだけど、視線は思いの外鋭くて……痛い。
「今の可愛くなかった?」
返事はなくても彼の目がYesと告げている。お粗末さまでしたと気を取り直して笑顔を繕う私。
「これから宜しく、流川君。分かんないことは何でも聞いて」
「宜しく……」
「宜しく、お願いします、ね。私君よりずっと歳上だから」
そう言って、ほんの軽い気持ちでソファーベッドに手をかけて、ぐっと近づいて、嫌みな笑顔を向けたら、予想外の反応が返ってきた。何気なく触れた彼の肩が、微かに揺れたのだ。
「.....」
動揺してる?と思わせるほどに、彼の黒く落ち着いていた瞳が微かに揺れたように感じた。今の私は絶対ニヤケているに違いない。だって、ねぇ?そんな予想外の初々しい反応見せられちゃ、聞かずにはいられないことが。
「流川君ってさ、彼女とかいないの?」
「……いないスけど」
あ、いないんだ。なんだか嬉しい。
「でも絶対モテるよね流川くん。あ、前はいたんだ?」
「いないッス」
ちょっと不機嫌...そして、意外だ。硬派には見えたけど...彼女、いても可笑しくなさそうなのになぁ。
「ふーん……。彼女いないんだ。けど好きな子とかはいるんでしょ?」
「はぁ……」
え、それは深すぎる溜め息?それとも頷く意味での?
「んなこと聞いて何になる……」
あ、溜め息だったみたい...。けど気になるじゃん普通に...こうゆーのも自己紹介のうちでしょう。
「だって興味あるんだもん。流川君はそーゆうの興味ないの?」
あれだけ交わらなかった視線が、今では熱い程に注がれている。それは好意的なものでないことは確かだけど(むしろ睨まれている)、食い入るように見つめてくる瞳から目が離せない。
「ねぇデス」
そして揺るぎない一言だった。はっきりした男は好きだ。けど...なんだか今のは、オマエには興味ねぇよって言われたみたいで少し堪えた。
「夏樹ぃ。まだ話してんのかー?もう終電間に合わなくなるぞー」
二人の間に流れていた微妙な空気は、井上ちゃんのダミ声が切り裂いた。今度は視線を外されるばかりか体ごと大きく反らされて、青年はソファーベッドから離れていった。
「俺、帰ります」
「うん。この続きは明日ゆっくり聞くわ。
流川君、また明日ね」
もうすでに帰る気まんまんの背中に声をかけて、流川君はやっぱり振り返らずに、じゃ、とだけ応えて出ていった。
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