[5]ルカワ君
井上ちゃんがいやー感心したと、第一声に放ち
何を感心したのかと聞くことに。
「ルカワ君は実のところ現役の高校生で?将来留学してバスケを極める為に、その資金を稼ごうとしていると」
「そうっ」
「うちで……?」
「そう!なんだけど……手違いだったみたいね。そこんとこは」
「そうでしょーよ……それに未成年じゃこっちも雇えないよ」
本っっ当に惜しいんだけど...。井上ちゃんは、けどねぇと何だかはっきりしない応え。
「なんで高校生ってバレたの?」
「ルカワ君が自分から言ってきたんだよ。だから無理ですよねって」
井上ちゃん……それ明らかに拒絶の姿勢なんじゃ...。どうにか面接落ちようとしたんじゃ...?
「ああけど働いてもらう事になったから。なんだかんだで。親に頼らないで自分でなんとかしようなんてさ……健気じゃない。俺気に入っちゃったよルカワ君」
「即決したのね。てか、大丈夫なの井上ちゃん……カレ未成年だけど」
「大丈夫だって。ルカワ君見た目は高校生に見えないから」
そーゆう問題……?
コンビニとは訳が違うんだようちは。
「ルカワ君はうちでやってけるって言ったの?」
「うん。ただ彼は部活動があるからね、月水金で一応21時から入ってもらうことにしたけど。あと日曜ね」
「部活……そうだよね。けどバスケ部ってかなりハードなんじゃないの?もつのかな、体」
「ハードだよねぇかなり。俺も心配したんだけど大丈夫だってさ。若いってすごいな……」
確かに若いからこそこなせるハードスケジュールだわ。
「で、何時まで?終電までには帰らせないとまずいでしょ。でもそうなると...」
「ラストまで」
「って2時まで入るって言ったの?」
「明日からな。夏樹車で送ってやってよ。車飛ばしたらそう遠くないからさ、お前のマンションから」
「それはいいけど...ルカワ君ほんとに大丈夫なの……?学校……」
「短期間で貯めたいみたいだからなぁ」
「いくら要るんだろうね……留学って学校から援助されないのかな」
「や、自活資金だろ。色々準備があるんじゃない?」
「ふーん」
大変なんだ。夢を追う学生も。親に甘えれば楽できるのに。でもそーゆう自立精神の強い子は好き。私も親に甘えたことなんかないし甘えらんなかったし、ちょっと共感するな。
「で、ルカワ君なんで寝ちゃったのよー…」
「いやーなんか感心しちゃって俺の学生ん頃の話とかしてたらいつの間にかさぁ。揺すっても起きないしどうしようかアハハハ。弱ったなぁ」
弱るのは貴方の方なんだけど店長……。
やっぱり武勇伝、語ってたのね。
小さな溜め息をひとつ。
無責任にも井上ちゃんは、ルカワ君起こしてあげてね、なんて言ってくるし。時間を確かめたら終電には辛うじて間に合うような時間だった。
「入るよー」
悩ましい女体のポスターに声をかけてから中に入る。
彼は、本当にそこで寝ていた。お世辞にも綺麗とは言えない部屋で、大きな体を小さくして。ソファーベッドに横たわって寝ていた。
「……あれ、ルカワ君移動してる……」
私のすぐ後ろで井上ちゃんの声。これはもう本格的に寝ちゃってるんじゃ……。そしてこの光景になぜか違和感を感じるのは、彼の余った足がぬっと突き出ているからかも。
大きな体して、あんな大人びた顔しているのに。会話の途中で本格的に寝入るなんて子供じゃないんだから、と思うけどまだ子供なんだっけ。
肩がゆるやかに上下していて、微かに寝息も聞こえてくる。背を向けられた状態で顔は見えないけど、きっと気持ち良さそうに寝てるんだろう。
けど起きてもらうよ。背後の井上ちゃんを一睨みしてから、眠る青年の逞しい肩を揺り動かした。
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