[4]背の高い男の子
「あ、どうもどうも。面接希望のね。ええっと僕、店長です。っていうか君デカイね!何センチあんの?」
井上ちゃんも、決して背が低いわけではない(175って言ってたっけ)。けれども、バイト君は遥かに高かった。
「……187スけど」
187?!ひょえ〜…!数字を聞いて更に驚く。
「デッカイねぇ!もしかしてモデルとか経験あったりするの?」
バイト君は小さく、いや、とだけ言った。なんだか私と井上ちゃんのテンションは急上昇で?バイト君のテンションは急降下?……
面接を早く、という意味を込めて井上ちゃんに目で合図をした。
「あ、面接しましょうか〜。こっちの奥でやるんで」
どうにか井上ちゃんに通じて、二人は奥の仮眠スペースになっている個室へと入って行った。
私のすぐ傍を通って行った彼を見ていたけれど、圧倒……。目が離せなくなるようなオーラ...?
イケメンもイケメン。
色んなイケメンを知っているつもりだったけど、
こういうタイプは、たぶん知らない。
一度だけ目が合った。彼が店に入ってきたその瞬間だけ。あとはどんなに私が彼の動作や仕草を追っても、合わせてくれなかった。
フツフツと湧き上がる彼への興味。好奇心。
自分の口端が上がるのが分かった。
仕事しなくちゃ。お客さんは店内の隅っこの方に一人だけ。今の内に新入荷の商品を並べておこう。
改めて説明を加えると、うちの店はアダルトなDVDの販売と買い取りを専門にしている。一般の商品も置いてあるけれどアダルトコーナーがメインなわけで。
前に一度、真面目そうなメガネ君が面接に来たことがあったけど、“こんな卑猥な商品を扱う店だとは知らずに来てしまいました”って、オドオドして帰って行ったけ。あれには参ったなー…。
けど悪いのはうちの店長、井上ちゃん。
求人情報誌にはきちんと詳細載せて貰わなきゃ……。
まさかあのバイト君も手違いで来ちゃいましたサヨウナラ、なんてことにならないよね?!
折角出会えたかっこいい男の子。ぜひ一緒に働きたい。
大丈夫かな〜...。
最初かなり、“俺間違って来ちゃった?”みたいな顔してたし……。
両手に抱えたDVDを一つずつ棚に並べながらあれやこれやと考えていた。
パッケージのタイトルも写真も、どれも際どいものばかり。
時計を見る。...遅い。
ううーん…。それからお客さんをレジに通して、新入荷の商品も並べ終わって。
遅いでしょいくらなんでも。
まさか井上ちゃんまた武勇伝語り始めちゃったんじゃ……。
井上ちゃんの若かりし頃の武勇伝は私も飽きる程に聞かされた。彼もその犠牲者になってやしないかと心配になる。
「井上ちゃーん。休憩入るよ?」
トントンとノックして、扉を開けようとしたら取手が回って、ひょっこり井上ちゃんが現れた。
「遅いよ井上ちゃん。まだ面接?」
シィと井上ちゃんは唇に人差し指を当てている。
「なに」
「寝ちゃってるの。ルカワ君」
「はぁ?」
「シィ!!」
シィったって……寝たってどういう…
「夏樹。ちょっと話あるからこっち来て」
私も話あるわよ。訳が分からず井上ちゃんの後についてコーナーの一角まで歩く。個室に眠ったらしいバイト君を残したまま…。
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