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[13]ストイックでエキセントリックな


 信号に引っ掛かり、手持ち無沙汰な待ち時間には、助手席に目をやった。

 うちの店で働くっていうのは、この子にとってどんなものだったんだろう。人付き合いが上手そうには見えないこの子にとって、接客をすることは苦痛だっただろうなと思う。

 金が要るんだと言った時の流川君の顔は、強く私の印象に残った。その目的は私と同じで、世の中皆その為に働いている。目的は同じことなのに惹き付けられたのは、流川君の目が強いせいだ。彼をまだ深く知らなくても、どこか惹きつけられるのは、あの奥底に隠した闘志の炎がゆらめくような目力。

 流川君は無愛想で静かだけれど、底知れない何かを隠しているような気がしてならない...。
 
 高校生だから...なのかな?

 学業にバイト、大変だろうから私が援助してあげましょうかなどと少しでも考えた自分は、流川君に比べて不純だ。

 私の胸の辺りはドクンと重くなる。信号が赤から青へ変わったら、全部に首を振るように急発進させた。



 私に足りないもの、なんて考えたくない。



 ただ仕事をして、金を貪って、それなりの恋愛をしてきたことを悪くは思っていない。ただ、満足してきたかなって考えたら息苦しくなった。ふと見たバックミラーに映る自分と目が合った。自信のない目はすぐに反れた。


「喋んないスね」

「え?」


 車内に満ちた流川君の声が、突然に私を呼び戻した。起きたらしい流川君が長い足をもぞもぞと動かすのが分かる。


「流川君寝てたじゃん」


「目ぇ覚めた。静かすぎて」


 私はハンドルをきり、車は右折した。目が覚めたなら丁度よかった。流川君の指定した場所はもうすぐだから。


「もう着くよ」


 返答はない。私は流川邸よりそう遠くない、暗がりの公園の脇に車を横付けして止めた。

 エンジンをきり、振動と、音という音は止まり、微々たる物音すらない静寂がくる。不思議なもので、始まりの静寂よりもずっと物悲しく感じる。離れがたい。どうしてかそう思ってしまった。

 一つ呼吸をして流川君を見る。「何でここに止めた?」と言いたそうな顔がそこにある。


「流川君明日学校なんだよね」


 返事もなく、だからこそ早く帰らせろな空気が彼の応えらしい。こういう空気に感心を持たない類の、ストイック且つエキセントリックな青年だとは仕事ぶりを見た上で重々承知済みだから今更か。

 とすると、その罪作りな魅力は何人の女を寄せ付けては落胆させてきたんだろう。





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