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[19]男子高校生





流川君の手元を見ると、拭き終えたらしいディスクが、パッケージの中に収められて重ねられていた。


「終わった?」

重なったディスクを私が回収するのを、流川君の目が微かに追ってくるのが分かる。
私はその後レジにやってくるお客を捌いて、終業時間までを口数少なくやり過ごしていった。




「お疲れ」

井上ちゃんがにこやかに私たちに声をかける。終業の合図。ふぅ、と一息つく。

「おつかれさま〜、流川君もおつかれっ」

軽く伸びをして、裏手に回る簡単な身支度を始める。

「...ウス」

流川君の眠そうな様子を見てクスリとなる。それに気づいた井上ちゃんが、流川くんに。

「これもすぐ慣れるからな」

そう、何事も慣れだ。

二人して裏に回って仮眠室へ入っていく。

私は、フォーマルな、センターにリボン付きのジャケットを身にまとって、
扉を背にして流川君の身支度を待った。

流川君がソファベッドに腰掛けるのを見て、ついそのまま観察してしまう。
今日の流川君の服装も、シンプルではあるけれど清潔感のある、高校生らしい装いだ。
チャコールのカーゴパンツに...
赤と黒のブロックチェックのコットン地のネルシャツに...
アウターが黒のトレンチコート。モデル体型がそう見せるのか、高校生らしくもあり
大人びてもいると思う。そして......単語帳?
上に羽織ったコートのポケットから、見たことのあるものを取り出して、ペラペラとめくり出した流川君。
私は何を見てるのだろうと興味本位に彼の前に立った。

「...英語の勉強?」

覗き込めば英単語。

「...」

学生らしいなぁ。そして懐かしい。私も単語帳、持っていたっけ。


「流川君って、まだ一年生だっけ」

「ん」

そうだ、彼はまだ一年生なんだった...。
何を食べたらこんなに大きく育つのかな。身長、ひゃくはちじゅう...何センチ?って言ってたっけ。
体格はもう成人そのもの。


「バスケ、やってるんだっけ」

「やってる」


流川君はマイペースに単語帳をめくりながら私の言葉に耳を傾けてくれている様子。


「じょうずなの?バスケで留学するって聞いたけど」


単語帳をめくる手がゆっくりと止まって、流川君が立ち上がる。ふいに高くなる目線に
私は心持ち後ずさった。


「...ねみぃ。帰る」


...マ、マイペース...。流川君は欠伸しながら私の側を通り過ぎていった。


「あ、流川君」

声をかけたらドアノブに手をかけた流川君が軽く振り向き、目が合う。

「駐車場まで一緒に行ってね」

少しの沈黙。そして流川君が進行方向に向き直ると扉を開いて出て行く。
私はその素っ気ない背中についていく。




「店長、明日お店お願いしま〜す」

レジにいた井上ちゃんに声かけて。

「おー。ああ
お前、明日は行くのか?」

「どこへ?」

私の足は止まり、そして流川君も立ち止まる。

「本業の方」

本業。私は思い巡らせた。...辛いこと多いし、
もう、こっちの方を本業にしてもいいかなって思うけどそうもいかないわけで。

「行くよー」

「そうか」

「それじゃあ、井上ちゃん、水曜また来るね」

「おー...。お疲れさん。流川君、帰り夏樹のことよろしくな」


よ、よろしくって。私が送るのに。ふと流川君を見ると、案の定ポカンとしている。


「頼りにしてるぞ〜」


そこは、同意。流川君も井上ちゃんの言葉に応える代わりに、軽く会釈して入口へと向った。







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あきゅろす。
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