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[18]意識してねえ

▼夏樹side




* * * * * * * *




「ん?」

なんだろ。私は困っている様子の流川君の傍まで歩み寄った。
近くまで行って...声をかけるまでもなく、彼の顔を見れば何を狼狽えているのかは歴然としていた。

たくさん並ぶAVタイトルを前に、視線が定まっていない。

昨日、「触るな」とはっきり言われたことを思い返す。
この子に彼女がいないのって...。

「流川君?平気?」

声かけ辛いくらい思いつめた顔。そっか、やっぱりこんなに背が高くって体格良くっても
まだ高校一年生だしなぁ...可愛い...っといけない。そういうのは"なし"だって決めたじゃん。


仕事仕事。
私は仕事の笑顔を取り繕って

「恥ずかしかったら、これをエッチなDVDだと思わないようにしたら?」

「...」

「いかがわしいものだと意識しすぎてたら誰でもそうなっちゃうよ」

...って、男子高校生に意識するななんて無理な話か。そう思って改めて流川君の顔を見たら
無表情だけど怒っているような、照れたような微妙な顔をされた。

「意識はしてねえ...」

「...。あ、そう...?」

意識してなかったらそこまで照れることもないでしょ...なんて言っても仕方ない。
レジを長々と無人にするわけにはいかないので、慣れてもらうためにも私は流川君を一人にして
持ち場に戻った。接客をしている間、彼の動向が気に掛かり目で追う。
どうやら克服したらしく、手際よく動いている。それからほどなくして彼が私の隣に戻ってくると
「おつかれさま」と声をかけた。


「慣れるとなんてことないでしょ?」

流川君はうつむき加減。

「今度はこのディスク、前に教えたみたいに拭いていってね。傷つけないように」

「...ス」

元気がない声に私はクスリと笑ってしまう。手元を見ていると、やっぱり綺麗な指だなと感心。
バスケする男の子の手ってこんな感じなんだなあと改めて。ディスクを手にとって、一枚一枚を
丁寧に拭いていくその姿を見ていたら、井上ちゃんがやってきた。



「おーす、おはようさん」

「おはよう、井上ちゃん」

井上ちゃんが流川君に笑顔で話しかける。

「頑張ってんなー。仕事慣れたか?」

「ッス」

と流川君。

「流川君飲み込み早いから全然大丈夫」
と私。

「そうかそうか、それなら良かった。大変だろうけど、頑張れなっ」

井上ちゃんは流川君の背中をトンと叩いて仮眠室へ入ろうとして

「...夏樹。ちょっと」

手招きされる。

「何?」

流川君も落としていた視線を上げた。手招きが止まないので、とりあえず井上ちゃんに歩み寄る。

「どしたの?」

井上ちゃんは少し渋い顔をして、私に耳打ちするように小声で言った。

「お前の客いるだろ。あの客がまた店の前に来てる」

私は、眉を潜めた。私の本業の客...。

「高橋さん?」

店長が頷く。はぁ、とため息がでる。あの客本当にしつこい...。
前にも私が上がるまで、待ち伏せされていたことがあったのだ。
あまりにもしつこく迫られるから、本業のキャバクラにも嫌気がさしていたところだったのに。

「一応、追い払っておいたけど、帰り気をつけろよ」

「ありがと井上ちゃん。私は大丈夫だから」

...大丈夫、とは言ったけど...ほんとしつこい客だから、内心、少し怖い。
何度断っても誘ってくるのだ。私は流川君の傍に戻り、小さくため息を吐いた。






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