[2]履歴書詐称
▼流川side
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条件は簡単。金が良くて仮眠がとれて、家から遠い場所。
家から遠くするには理由がある。知り合いとの鉢合わせを避ける為。もし学校の連中にバイトしていることがバレたら面倒なことになる。
夜に珍しく俺は眠りもせずデスクに向かい、それだけを目安にアルバイト情報誌を捲っていた。
アルバイト情報誌も初めて見るもんだから
こんなに色んな職種があるのかと驚かされる。
そういや、ビデオショップってどことなく暇そうで仮眠を取るには丁度良さそうだ……
寝に行く訳じゃないがそこは重要なところ。コンビニも浮かんだが、あそこは忙しなくて性に合わない気がする。
だから、俺の条件を満たすような店は……
“ビデオショップJET
○町駅から5分。時給850円。仮眠スペースあり”
こんなもんか。けど高校生不可と書かれている。条件は良かっただけにそこが惜しい。
履歴詐称するしかねぇか。偽ったり小細工するのは好きじゃねえ、けどこの際仕方ない。
俺はさっさと履歴書(年齢詐称プラス証明写真添付済み)を書き終えると、すぐにその店に電話を掛けた。
俺にはゆっくりしている時間なんてない。睡眠時間を返上してるんだから尚のこと。
数回のコールのあとに出たのは女の声だった。
『はい、ビデオショップJE…「バイトの面接受けたいんですけど」』
早く終わらせたいばっかりに女が言い終わる前に要件を伝えてしまった。
なるようになれ……。
「あ、面接ですね。今店長に代わりますのでお待ち頂けますか?」
デスクに転がっているペンを弄りながら眠気と戦う俺にはぼんやりとしか内容が入ってこない。
「はい」
待っている間の子守唄を聴きながら寝そうになる。
『お電話代わりました。店長の井上です。お名前と年齢を教えて頂けますか?』
「流川楓……18歳です(嘘だ)」
『大学生ですか?』
「そーです(大嘘だ)」
『分かりました。それじゃ面接日は…』
「今からでもいいですか」
『あ、いいですよ。何時ぐらいに来れます?』
俺は部屋にある時計を確認する。9時過ぎなら電車で行って面接してさっさと帰ってくればそんなに遅くはならないと思った。明日も夕方まで部活があるしいつ面接するにしろ時間帯は同じになるだろう。
なら早い方がいい。
そんなことを漠然と計算しながら応えた。
面接時間が決まると、電話を切ってから早々に身支度を済ませて、
俺は部屋を出た。
「楓……?こんな遅くにどこか出かけるの?」
こっそり出るつもりで音を立てないようにゆっくり歩いたつもりが……母親がリビングからひょっこりと顔を出してくる。
「ちょっと」
「楓」
これからもこうして夜更けに出掛けなきゃなんねぇんだ。その度にどう説明をつける?バイトなんてうちの親が許すとは思えない。
もうまともに納得させる答えが見つからず、俺は自分でも呆れるような言葉を口にしていた。
「彼女に……」
「彼女?」
「彼女に会いに行く」
「嘘!あんた彼女いたの?!」
「痛い……」
腕を引っ張られて勢いのまま振り回されて痛い。うちの母親は興奮するとこうだ。
「なによ水くさい子ね〜教えなさいよ」
「……行ってくるから」
自分でも不可解な言い訳を、母親は信じ込んで、やけに明るく見送ってくれた……。
結果良ければということで
俺は家を後にした。
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