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 潰れたペンケースをどうにか開こうとするにも、開け口は見事にめり込んでいて
開く気配はない。困ったなあ・・・。うんうんと小さく唸りながら奮闘する姿を
自分の席に戻りかけた彼が気にかけていた。どうしよう、先生がきちゃう・・・。
私は狼狽えた。そしてカバンの中に予備の筆記具がなかったか確かめようとしていると、
再び影に覆われて、机の上に置かれていたペンケースを掴む大きな手が見えた。

「うむ。このか弱き乙女の味方、天才紳士桜木に任せたまえ。」



 バキッ!!

 あっという間もない。潰れたペンケースの蓋が開かれた。というよりも、片方で繋がっていた蓋が外されてしまった。
音に気づいた近くにいた女子数人が、ぎょっとした顔で桜木君を見た。そしてひそひそ話をし始める。
「壊したわよ・・・」「やだあ乱暴者」「ひどいわねぇ・・・」「やっぱり怖いわよね」など、眉を潜めて言っている。
私は誤解を解こうとしたけれど、すぐに先生が来たことでそれはできなかった。

 そっと置かれたペンケース。彼が、何事もなかったかのように私の側を通り過ぎて行くのが分かる。
私はペンケースの中からシャーペンを取り出しながら、後ろの窓際の席に視線を向けた。
桜木君・・・。私の胸がトクンと跳ねる。窓からの緩やかな風が、桜木君のいる席のカーテンを揺らしている。
外を眺めているその横顔に見入ってしまった・・・。小さく見える机に大きな体をはみ出させて、腕組をして。
きっと・・・バスケのこと考えているんだろうな。テスト用紙が配られて、前を向いた桜木君と目が合った。
今日という日に、いったい何度目が合ったんだろう。私はすぐさま教卓に向き直って、胸の高鳴りを抑えるように
両手で心臓を押さえつけた。私どんな顔をして彼のことを見ていただろう。


 ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・

 まぎれもない。恋のはじまりだった。


End.


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あきゅろす。
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