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「あ、折れた」

 またかよ。

「ああ!また折れたぁ!」

 ……ったく
鉛筆もまともに削れねぇのかよ。見てるこっちがまどろっこしくて……。

「お前……、貸してみ。俺がやってやる」
「み三井……いいよやらなくて!私やれるんだから!」
「バ〜カ。出来てねぇからやってやるっつってんの!」

 水無瀬は吃驚するぐらい不器用な女だ。出来ないくせに人一倍負けず嫌いだから何でもかんでも自分の力で解決しようとしやがる。負けず嫌いな点は俺と似ていて、決定的に違うのは、実力が伴ってるかどうかだな!俺は実際何でも出来ちゃう完璧な男だから。ほんと自分でも怖いぐらい完璧で……。

「ちょ、三井……あんたいい加減にしてよ……ボキボキボキボキ折れてるんですけど……」
「え、あ、あれ……?」
「もう!いいから返してよ〜鉛筆!」
「あ、わり……全部折っちまった」
「ちょ、最悪なんだけど!バカ三井!」

 ……俺ってこーゆうちまちました作業苦手なんだな……今気付いた。いや、気付かされた。芯の折れた鉛筆を束ねて、カラカラと水無瀬の机に転がす俺。それを集めてじとーと恨めしい視線を寄越してくる水無瀬。

「ごめんて」

 バーカ。ってか。また言ったな。よし、後で頭はたいてやる。

 昼。弁当の時間。俺は大抵徳男と屋上で飯を食う。けど最近は寒くて屋上なんて行ってられないから教室で食っている。今日なんて最低気温1度だぜ1度。こんな日に屋上行って食ってるバカなんて流石にいねーだろ……そう思ってたんだけど居るもんだな……本物のバカって。徳男がいねぇなと思ってその辺に居る奴取っ捕まえて聞いたらよ。赤髪リーゼントの連中と連るんで屋上で飯食ってるってんだから。赤髪リーゼントって……あいつ等いつの間に仲良くなったんだ。ったく一年坊は元気だよなー…俺は駄目だわデリケートだから……。寒いの苦手だもん。

「なぁ、お前も寒がりだよな」
「え?」
「だってお前よく膝掛けしてるじゃねぇか」

 水無瀬の横の席が丁度空いてたからそこに座る(まぁ勝手にそこに居た奴がいなくなった隙に座ったんだけどよ)。

 水無瀬はピンクの膝掛けをして、小っこい弁当に片手を添えて汐らしく飯を口に運んでいる。こんな量で足りんのかなーと思う。もっと早く食えねぇのかよとか。けど女って皆こうだよな。

「うん、寒がりな方かなぁ?三井も寒がりだよね〜。顔に似合わず!」
「顔は関係ねぇだろ」
「ふふふ」

 ふふふって……。

「あ、お茶飲む?それ冷たいでしょ?いちごぎゅーにゅー。ふふふ」
「……おいコラ!さっきからなーにが可笑しいんだ?ん?」
「だって三井がいちごぎゅーにゅーって!ぶはっ!ごめん我慢出来ない!あははははは!ひぃおかしい……っ」
「わっ笑うんじゃねぇ!好きなんだよいちご牛乳。……悪いか」

 確かにこんな寒い日に冷えたいちご牛乳飲んでる奴も珍しいかも知んねぇけど好きなんだからしょうがねぇだろ。実際美味いじゃねぇかいちご牛乳。いちごだからって女のもんみてぇな考え方は男女差別だと思うぜ!

「ごほんっ。ごめんごめん。ね、いる?温かいお茶」
「……飲む」
「よし」

 水無瀬の白い手が机上の赤い水筒を掴んだ。それを捻る水無瀬の手。小っこいなぁ……と思う。可愛いなぁ……とも思う。こいつ、結構可愛いんだよな……黙ってれば……。

「あれ……?開かないっ!堅いィィィ!」
「プッ。なにお前。水筒も開けられないわけ?どんだけ非力なんだよ」

 可愛いよなぁ……好きだなぁ俺……こいつのこと。

「だ、だってほんとに堅い」
「バッカ、貸してみ。開けてやる」

 構っちまうんだよな、どうしても。なんて思いつつ。

「ん、開いた」
「わ!バカぢから………痛ッ!(頭はたかれた)」
「うま〜……あったけ〜……」
「でしょでしょ?」
「おう……。うまい」


 水無瀬の手、ほんと小せぇのな。机の上にちょこんと添えられている白い手を見て、改めてそう思う。不器用で小さな可愛らしい手。女って皆可愛らしい手してるよなぁ……。俺はほぼ無意識の内に、水無瀬の手に自分の手を重ねていた。温かい手だ。俺の冷えた手が水無瀬の体温と同化していくのが分かる。

「えっ」

 赤くなった水無瀬。こいつ案外俺のこと好きなんじゃねぇかな、なんて淡い期待を抱いてみる。俺はさ。俺はこいつのこと結構マジなのかも。照れてる顔とかやっぱ可愛いと思うし。

 不器用なとことか、気が強いくせに然り気無く優しいとことかよ。俺の好みのタイプなんだと思うんだよな。

「何!?」
「別に?」
「……もしかして。私で暖をとってる?」
「あ、いいなそれ」
「いやいや良くないから!何その笑顔!」

 好きな女で暖を取れたら最高じゃねぇか。つーか他に気付くことはねぇのか!?手まで握ってんのによ。不器用なだけじゃなくて鈍感だから困るよこの女……。

 ほんとに暖をとるだけの為に女の手を握る男がどこにいんだよ……バカだな。

「三井……そんなに寒いの?」
「まぁなー……今日冷えるしよー……」
「じゃあ後でカイロあげようか?」
「そりゃどうも……」

 ああ、俺気付いたわ。たった今な。俺って報われないんじゃないかってことをよ。

 俺って人に言わせると鈍感らしいけど、お前は俺の鈍感ぶりに輪をかけて鈍感なんじゃねぇか。



 男のアプローチを何だと思ってんだこいつは……。



「おい、これ飲むか?いちご牛乳。あとちょっと残ってるし」
「い、いらないよ!間接ちゅーになっちゃうじゃんか!」


 バッカ、だから飲めってんだよ!

「いいから飲めよ」
「やだ」
「飲め!」
「やー!」


 ……くっ……この俺の好意を頑なに拒むとはいい度胸だぜ……。しかもなかなか傷つくぜ……。けど燃えてきたぜ。


 この女、絶対俺に惚れさせてやる。


「なんか三井の手が熱くなってきたんですけど……」
「ハッハッハ!燃えてんだよ俺ぁ!ハッハッハ!」
「ぎゃあなにこの人怖い……!変態がいるぅーッ!」



 先行き超不透明!





End.


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