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 夕暮れの教室で、一人ぼーっと空を眺める。ひたすらぼーっとして、流れる雲を見つめて時間潰し。こうしていると時間はあっという間に過ぎるから。待ち人はまだ来そうにないからもう暫くこうしてよう。


 今日は1日色んなことがあった。授業は相変わらずつまらなかった。授業中にきた三井のメールに笑った。お昼休みに友達と喧嘩した。些細なことだったけど、いつもと様子が違ってて理由を聞いたら聞かなきゃ良かったと心底後悔する返事が返ってきた。三井くんのことが好きだったのにって。

 知らなかったよ。知ったからどうって話でもなかったのに、私はごめんって謝った。その後三井とも喧嘩した。喧嘩っていうより私が三井を一方的に無視して、ギクシャク。気まずくてつい避けてしまったけど、私が悪いわけでも三井が悪いわけでもない。ただ謝ろうと思って今奴を待っている。


 放課後の教室に一人でいることに最近は慣れてきた。いつも三井の部活が終わるのを待っているから。帰る時ぐらいしか、まともな会話できない。付き合ってたって、クラスメートの前で寄り添ってるのは二人とも柄じゃないし。休み時間に三井はいつも教室を抜けてどっかに行ってしまうし…。

 付き合ってから何ヵ月か経つだろうけど、友人が羨むような仲なのかどうか疑問で。けど、悲しませてしまったようで……私も酷く悲しい。


 オレンジに染まる教室。黒板の方へ歩いて行って、黒板消しで誰かが描いた落書きを消す。そこに、三井のボケって赤いチョークで書いて、教壇の椅子に座って俯いて顔を隠して寝そべった。


 どれぐらいそうしてたんだろう。ハッとして頭を起こしたら、三井が自分の席で帰る用意をしていて、ドキッとした。


「な、んだいたの」


 そう声にしたら三井は私の方を見て怖い顔をした。


「こっちが言いてぇよ」


 そう言われて言葉につまる。謝らなきゃ。教壇から三井の席まで歩く。三井の席まで辿り着く前に三井がまた私の方を見る。

「誰がボケだって?」

 私はまたハッとして振り向くとそこにはさっき書いた“三井のボケ”が赤字でしっかり残っていた。私がそれを消そうと慌てて黒板の方へ戻ったら、すぐ後ろで三井の気配がして身構えた。私が黒板消しを持つより早く、三井がそれを手にする。


「お前ふざけんなよ」
「ご、ごめん消すの忘れて…」

 三井が黒板を消すのに腕を動かす度に私の肩に腕が当たる。私の背中に三井の胸板が触れていて、私は柄にもなくドキドキして耳を熱くした。

 赤字が綺麗に消えると、カタッと音をさせて三井の手が私の二の腕を掴んだ。掴まれたとこを見たらそこにはチョークの赤が薄く滲んでいた。


「いつも俺のことアホだのボケだのとお前は!」
「…痛い」


 腕に走る痺れるような痛みに眉を寄せて、三井の顔を見上げる。額に汗がまだ滲んでいて、掴まれた箇所もじんわりと熱っぽい。


「なんだ元気ねぇな。帰んぞ」
「………」
「なんだよ……帰るぞって」


 黙り込む私に今度は顔を覗きこんでくる。怪訝そうな顔。


「なに泣きそうな面しちゃって……」
「……うるさいなぁもう…」


 三井が私のこと泣きそうとか言うもんだから本当に泣きそうになって慌てて三井を押し退けた。んでもって顔反らして窓際に行こうとしたら今度は手首を掴まれる。


「どした。なんか今日変だぞお前」


 後ろじゃもしかして三井が心配そうな顔してるのかも知れない。けど私は振り返らずに足元を見つめて言った。


「なんでもない。だいじょうぶ」

 ほんとは大丈夫なんかじゃないけど……明日からどうやってあの子に接したらいいか分かんないし、頭んなかぐちゃぐちゃだけど。三井の手を見たら、しっかり私の手首を掴んでいて、涙が溢れそうになってもじっとそこばかりを見つめていたら、視界がグラリと歪んで、とうとう一筋の涙が頬を伝って流れてしまった。

「……水無瀬。お前もしかして泣いてる?……ちょ、こっち見ろって!」
「……やだっ」


 三井は私の手首を解放し、その代わりに両肩を掴んで無理やり顔を上げさせようとしてきたもんだから私は堪らず、目をぎゅっと閉じて俯く。今度は涙が幾筋も流れた。


「俺なんかしたか?お前泣かせるようなこと」


 私は首を横に振る。降り注ぐ声がいつもより優しい気がする。そう思ったら余計に泣けてきて鼻まで啜ってしまった。


「ごめん………」


 三井は黙り込んでしまった。暫くして、私の肩を掴む手の力が強くなった気がしてそっと顔を上げたら、普段じゃ見られないような真面目な顔した三井と目が合った。



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