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懐かしい場所



 どうせ寮に戻ったところで、また暇を持て余すだけだ。自分も暇潰しだと思えばいい。

 やたら生意気なこの女の言いなりになる訳じゃない、と自分を納得させてシエンナに同行することにした。

(そうだ……こいつ俺より年下なんだよな)

 然り気無く、先を行くシエンナの後ろ姿を眺めた。背はセルフィより少し高めだろうか?そしてゼルは、そっと彼女の隣に歩み寄って安堵の息を吐く。

(……俺の方がデカい)

 施設内部へと続く廊下をコツコツと規則正しい靴音を鳴らして行く。身長差はこうして並んでみないとはっきりしないぐらいの差だ。それでもホッとする。

 ゼルが小柄な背丈をコンプレックスに思うようになったのは、スコールとアーヴァインのせいかも知れない。あの二人は背が高い。これでシエンナまで自分より背が高かったら……と思うとゼルはぞっとした。ゼルにとって168センチというのは危うい線らしい。


「ここって施設も綺麗だし、設備も整ってるし、環境もいいし、文句なしよね」

「そうか?」

 ゼルを追い越して先を行くシエンナ。その後ろ姿をぼんやりと眺める。シエンナはしゃきしゃき歩いた。

「確かにいいとこだよここは。けどお前のいたトラビアガーデンだって立派な学校じゃないか」

「前はね?ミサイルで滅茶苦茶になってしまったから」

 ゼルは苦い顔をして俯いた。それに関してはあまり思い出したくない。

「けどあれからだいぶ復興したのよ。皆で力を合わせた甲斐あってね」

 シエンナはそう言って振り向きざまに笑顔を見せた。

「そうか」

 トラビアの人達の団結力や、強い自立心はどこからくるものなんだろう。あの苦境でも弱音を吐いている人間なんて一人もいなかった。あの時のセルフィの表情は忘れられない。


「このゲートを潜って行くのね?」


 シエンナの声に、ゼルは思い出の中から引き戻される。そこにはあの懐かしい匂いと光景が広がっていた。湿度のある濡れた空気に、草木の発するイオン。そして微かな獣の臭い。立ち止まって辺りを見回すシエンナの側に歩み寄ると、足元の砂利がザッと鳴った。


「そうだ。行くか?」

 シエンナは少し余裕を見せて不敵な笑みを向ける。そして「もちろん」と一言だけ言うと、さっさとゲートを開いて先へ行ってしまった。


(可愛くねぇなぁ………)


 頼もしいと言うべきか。気後れしたゼルがシエンナに続いて、懐かしい人工密林へと入っていった。



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