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フリオニールの家


中へ入ると、なるほど、こじんまりとしている。
そして壁の至る所に飾られた多種多様な武器の数々を見て、修理屋というのも頷けた。

少女は、部屋の中を一通り見回した。決して広くはないけれど、木造の家の暖かみがあって、どこか懐かしく感じた。
少女はこの家を気に入った。

「ここ、なんだか落ち着く!」
「それならよかった。あ…」

フリオニールは荷物をテーブルに置いて、ある一室へと消えると、またすぐに姿を現して少女の元へと戻ってくる。

「これで体を拭くといい。あと……
その、着替えた方がいいな…。
このままじゃ風邪を引くし」

フリオニールから洗い立ての真っ白なシーツを手渡される。

「ありがとう。…これシーツ、使っていいの?」
「綺麗な布はそれしかないんだ」

そう言って苦笑するフリオニール。

「着替えは……こっちで」

フリオニールが先ほど消えた一室へと向かい、手招きに誘われて少女も後に続いた。

「ここが風呂場だ。脱衣所なんてないから、着替えはここでしてくれ」
「分かった。あ、御手洗はこっち?」

少女が風呂場の隣の扉を指す。

「そうだ。家の裏手にもう一つあるが、あそこは長らく使っていない。一応使えるはずだけどな」
「ねぇここ、電気通ってるのね」
「通ってるさ」
「だって」

少女は口ごもる。

「必要最低限の電気しか使わないからな。灯りはランプで充分だし、ちょっと薄暗いが慣れればどってことない」
「ダイジョーブ。他人の家の灯りを借りて過ごしてたんだよ、私」

フリオニールは複雑な表情になる。

「ねぇ、私、裏の御手洗を使わせてもらっていい?」

少女は少し考える仕草をしてから言った。

「それは構わないが……夜は真っ暗だから、ランプを持っていかないと危ないぞ。こっちじゃだめなのか?」
「私、裏の方を使いたい。お願い」
「ああ。使いたい方を使えばいい」
「……それと……」

少女は続ける。

「買いたいものもあるんだけど…
お金も少し欲しい」

フリオニールは少女を見つめる。
少女も、真っ直ぐに見つめ返した。

「いくらいるんだ?」
「少し」
「それなら俺が出かける時についてくればいい」

少女は首を振る。

「一人で行けるよ」
「……」

フリオニールは少し考えて言った。

「分かった。明日の朝、テーブルの上に幾らか置いておく」

少女は、自分の望んだことであるのに心底驚いた。そして出会ったばかりの自分に、金を渡すことを躊躇わないこのフリオニールという男が気になり始めていた。この男はどういう男なのだろうか。出会ったばかりの自分に親切にしてくれる。持ち逃げされるかも分からないのに金貨もくれるという。

少女は改めてフリオニールの顔をじっくりと見た。精錬な、濁りのない綺麗な目をしている。そしてその真っ直ぐな目には優しさが滲み出ている。少女は、初めて、少し照れた。

「フリオニールって、優しいね。
さっきの男に、私が泥棒だって話聞いたでしょ。なのに助けてくれた。こんな人はじめてだよ」
「……」
「お礼は、ちゃんとするよ」
「そんなものはいらない。俺はただ、」

少女がクシュンッとくしゃみをする。

「ああ、早く着替えてこいよ。風呂にも入れ」
「うん。ありがとう、フリオニール。だいすき!」

そう言って満面の笑顔を残して、
少女は一室へと消えていった。

「なっ、な!
だいすきって何だよ……」

かぁっと頬が紅潮していくのを感じるフリオニール。
そして、自らも服を脱ぎ始める。
雨でずぶ濡れだ。部屋の床も後で拭かなければ。

そして半裸になったフリオニールは、陽が落ちて一層暗くなった部屋にランプの火を灯した。
それから、暖炉の薪に火を焼べる。



暖炉の前に距離をとって木製の椅子を置くと、背凭れの部分に濡れた服を掛けた。

「あとは……床を拭いておかないとな」

しかし……とフリオニールは調理場の脇に置いてあったバケツとそこの淵へ掛けられていた雑巾を手にして思った。参ったな、勢いで少女を助けたは良かったが、これからどう過ごして行けばいいのだろうかと。年頃の男女が二人きりで同じ屋根の下暮らすのだ。

フリオニールが膝をつき、床を拭き始めたその時だった。少女が風呂場からひょっこりと顔を出した。

「フリオニール」

フリオニールが顔を上げる。

「なんだ?」

そこにはまだ着替えていない少女が、目をまん丸くさせて立っていた。

「着替えは?」
「あ!あの、着替えないんだった……」

少女の頬が赤くなっている。

「あ、そうか……」

フリオニールが、雑巾をバケツの淵に掛けて立ち上がる。

「……」
「……」

二人がしばし見つめ合う。フリオニールは少女を見て何か考えている様子だったが、じっと見つめられていることに少女はますます赤くなる。

「ココの服が乾くまで
俺の服を着ろ。小さいサイズ探してくる」
「うん」

フリオニールがまた別の一室へと消えていく。それを見送って、ココは思うのだった。

(すごい筋肉)

それはフリオニールの半裸姿を目にして思った率直な感想だった。衣服を纏っていた時には気づかなかったが、フリオニールは18歳ながらも体格は随分と逞しい。

「これしかなかった。一応着てみてくれ」

フリオニールが白いシャツを手にして戻ってくる。

「あ」
「?」

フリオニールが立ち止まる。

「それじゃ透けちゃう。下着もないから。何か下に着れる服ないかな?」
「……」

フリオニールの動きが完全に止まり、瞬き一つしなくなって、少女が困り顔でいると、漸く止まっていた時が流れ始めたように、ゆっくりと動きだした。

「……わ、わかった。待ってろ…」

ぎこちなく元来た場所へ戻って行くフリオニール。そして次に現れた時には彼は上着を身に纏っていた。

少女に着替えを手渡す。

「こっちの小さい方を着て、上にはこれを着ればなんとかなるだろ……」
「わかった」
「下の方は流石にサイズが合わないだろうから…」
「なんとかする」

そう答えて少女はマジマジと手渡された服を見る。どちらも大きい。

「早く着替えてこい。本当に風邪引くぞ」
「ダイジョーブだってば!体頑丈なんだから」

そう言って、今度こそ着替えるため風呂場へと消えていく。

けれど、フリオニールはふと思い出した。この家の湯を出すのにはちょっと手こずるのだ。
風呂場の前までやってきて、扉をノックする。

「おい」
「なに?」

浴室から声が返ってくる。

「風呂入るだろ?」
「うん。今から入るとこだけど」
「……。湯の出し方分かるか?」
「それが、なんか全然出てこなくて…どうなってんのこれ!?」

やっぱりな、と思った。


「コツがいるんだ」

フリオニールは湯の出し方の手順を、扉越しに口答で説明した。
少女は苦戦しながら言われた通りにする。

「出た!出たよフリオニール!」

歓声を上げて喜ぶ少女。

「ああ、それで、一瞬熱湯が出るから気を付け……」
と注意を促そうとしたところで、今度は叫び声が上がった。

「アッツい!!」
「……ほらな?」

少女は飛び上がった。

「ほらな、じゃないよ、熱湯が!
先に教えてよー!」
「悪い…。熱湯が出るから気をつけろ……」

フリオニールは言い直した。

「すぐに適温に戻る」
「わかった……ありがとう」

扉からフリオニールの気配が遠のいていく。
少女は浴槽に入り座ると、そのまま湯が溜まるのを待った。




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あきゅろす。
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