[携帯モード] [URL送信]
安息の場所へ


男から離れて、二人は人の賑わいの中にいた。

少女が肩で息をしながら、フリオニールを見上げる。

「はぁ、はぁ、これでもう追ってこない…、お兄さんが通りがからなかったら、ちょっとまずかった」

そして、無邪気に舌を出して悪戯に笑う少女。手は繋いだままだ。

「ちょっとじゃないだろ?
君は…いつもあんな危険な目に合っているのか?それに…家がないって言っていたな…あれは」
「ほんとだよっ」

少女は屈託無く答える。

「じゃあ、本当にあの辺りで野宿しているっていうのか!?」
「そうだよ。たまに、屋根付きにありつけることもあるけど」

と、言ったところで、フリオニールの焦った様子に少女も語尾が小さくなる。

「こんな小さな少女が……野宿なんて……あまりに危険すぎる…」

フリオニールは誰へともなしに呟いた。

「私、見た目より少女ってわけじゃないよ!」
「いくつなんだ?」
「16」
フリオニールはため息をついた。

「十分少女じゃないか……。
しかし、もっと幼いのかと思ったな」

少女は、16歳にしては背も低く、痩せ細っているせいもあってか幼く見えた。

「お兄さんは23くらい?」
「……18だ」

少女は驚愕した。

「うそだ!私と二つしか違わないなんて!大人だと思ったのに!」
「なんで嘘をつかなきゃならないんだ……。俺は18だよ」

少女は繋いでいた手をようやく離したが、心なしか視線が泳いでいる。
そして、落ち着き、今度は落胆したように俯いた。

「……せっかく今晩の宿を見つけたと思ったのに…」
「今晩の宿?」
「どうせ親付きなんでしょ?」

そう言って少女が見上げたフリオニールの表情には薄っすら影が射したように見えた。

「いや…。俺も親はいない。ここから少し離れた村で一人で暮らしているよ」

少女の目はフリオニールに釘付けとなった。

「親はいないって?」
「言葉の通りさ。両親二人とも亡くしている。俺も君と同じ、孤児だ」


少女はフリオニールをじっと見つめたまま暫く考え込むように沈黙して、やがて口を開く。

「そっか、私ら同類か。ねぇ、名前なんて言うの?」
「…俺は、フリオニール。そっちは?」
「私はココ。よろしくね、フリオニール」
「よろしく…。ところでココ…」
「なに?」
「今晩の宿って話だけど、俺の家に来るっていうことだよな?」
「うん」

ココはあっさりと言ってのける。

「それは構わないし、野宿させるわけにはいかないから、そうするつもりだったんだが…」

少女は頷く。

「俺の家は狭いし、散らかってるぞ」
「そんなの平気だよ」
「…それに…」
「それに?」
「ベッドは一つしかない」

フリオニールが真剣な声音で神妙な面持ちで打ち明けるものだから、ココは思わず吹き出してしまいそうになった。

「私はどこでだって寝られるからダイジョーブだって!」
「いや、そういう問題じゃないんだけどな……」
「私ちゃんと、家事もするし、迷惑にならないようにするよ」

フリオニールは考え込む。
すると少女が、

「フリオニールって、何して生活してるの?」
「……。俺は元々反乱軍にいたんだ」

少女の幼い顔が若干引きつった。

「軍の人間だったんだ」
「今はもう俺たちは必要なくなったからな。こうして故郷に戻ってきた」
「今はなにを?」
「今はモンスターの駆除をして生活できるだけの貯えは補えてる。あとは武器の修理もしてる」

少女は、フリオニールの持っている麻袋に視線をやった。

「それなに?」
「これは武器を修理するための備品だ。あと、今晩の食料」

少女はフリオニールを物珍しげに見ている。

「家事もぜんぶこなしてるの?」
「…ああ。掃除はそんなにマメにはやれてないけど、一応は…」

少女は、深く感心した。自分と歳もそう変わらないという青年が、立派に生活していることに。同じ孤児であっても、宿すら持てない自分とは大きく違う。いや、少女にも家はあった。しかし、新しい両親は二人ともココを愛さなかった。居場所を失った彼女は、自ら家を出たのだった。

「…どうかしたか?」
「なんでもない」

フリオニールは少女を一瞥すると、空を見上げた。

「これは一雨来るな。とりあえず、先を急ごう」
「うん」

フリオニールと少女が歩き出し、村へと向かう道中で、フリオニールが予言した通りに小雨が降り始めた。
次第に強くなる雨に、二人も急ぎ足になる。

「こんな雨の日はどうやって過ごしてたんだ?」

小走りになりながら少し後からついてくるココに話しかけるフリオニール。

「軒下とか、民家と民家の隙間に入り込んだり、その時によっていろいろ」

フリオニールは愕然としてしまう。
けれど、両親を失って間もない頃のフリオニールもまた、彼女のような生活をしていたことがあった。

「…よく死なずに生きてこれたな…」

するとまだ幼くあどけない少女の声が返ってくる。

「運は強いんだ、わたし!
だから、フリオニールにも出会えた!」

その声を掻き消すように雷鳴が轟く。
二人はずぶ濡れになりながら、フリオニールの暮らす村まで走った。







走ったおかげで、程なくしてフリオニールの暮らす村に到着した頃には、陽の光が夕立ちの厚い雲に完全に覆われて、辺りはどんよりと暗かった。

フリオニールの暮らす村は、どこか寂れて荒んでいるようだった。

「着いたぞ」
「う、うん」

少女は心細くなり、小声で応える。

「だいぶ復興したんだけどな。まだ跡がな…。前はもっと美しい景観だったんだぞ」

そう言いながら、扉に掛けられた板状の施錠を外すフリオニール。

「言い忘れていたが……夜になると、この辺りは物騒だから出歩かない方がいい」
「…わかった」

少女は素直に従った。
そして、二人はひとつ屋根の下へ。

根無し草の少女はこうしてひとまずの安息の場所を得たのだった。




[*前へ][次へ#]

2/4ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!