リノアの奮闘
「痛…っ」
ああ…猫の手にして気をつけてたのに、久しぶりに指切っちゃった…。
包丁さばき、だいぶ慣れたと思ってたけど、まだ甘かったか。
慣れてきた頃がいちばん指を切りやすいってどこかで聞いたような気がする。
私は、包丁をさっと水洗いして、ひとまず絆創膏を取りにリビングへと向かった。
そこにはノートPCと向かい合い、朝食を待ついつものスコールがいる。
私は心の中で、ごめんねと呟いていた。
「どうした?」
絆創膏を指に貼り付けていると背後から声をかけられる。
「大丈夫。ちょっと指切っちゃっただけ」
振り向かずにキッチンへ向かいながら応えた。
私はいつまでたっても料理が上手くならない。
努力はしてるつもりなんだけど…家事が本当に苦手で、上手くやろうとするほど
空回りしている気がするの。家事だけじゃなくて他のことにしてもそう。
一生懸命にやっても完璧と言える仕上がりにはならないんだ。
そんな自分に嫌気がさしてくるけれど、スコールは、私が失敗しても最近は何も言わなくなった。
我慢させてるのかな、と思う…。前に料理を振舞って、正直な感想を聞いた時、
あまり美味しくないって言われて、めちゃくちゃ凹んで、何も手につかないくらいに落ち込んで
そんな私を見てから、スコールは何も言わなくなった。私も落ち込むのを分かっていて
料理を作る度に感想を求めたりするから、たぶん気を使わせていると思う。
キッチンに立ち、ふぅとため息をついて、気を取り直すと包丁を握り締める。
(がんばって美味しく作るからね)
そう心の中で願いを込めて、スコールのために朝食を作る。
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出来上がったトーストに、ハムエッグに、トマトサラダをリビングへと運んで
スコールの前の席に腰を下ろすと、スコールも作業を止めて、私ときちんと向かい合う。
そしていつものように二人で「いただきます」を言って、朝の食事が始まる。
ハムエッグのハムを口にすると、やっぱり少し塩っ辛い。前に作った時は薄味だったから、
今回はもう少し塩コショウを多めに…と思ったんだけど、多すぎたかな…。
多いかも、って気はしてたのに、どうしていっぱい振りかけちゃったんだろ。
どうして、というのは作り終えた後に必ずやってくる。
私は毎度こんな具合で簡単な料理でさえ満足のいく味付けができないのだ。
内心どぎまぎしながらスコールの顔色を伺う。
スコールは黙々と料理を口に運んでは咀嚼していく。いつもの光景だけど、いつものように
あまり美味しくないことは私が一番よく知っている。だけど、聞いてしまうの。
「おいしい?」
スコールと目が合う。口に運ぶ手が止まってる。
「おいしいよ」
嘘だ。今日のは塩っ辛いよ。
「今日ね、ちょっと味濃くしすぎちゃったかも。前が薄味だったから」
「そうか?こんなもんじゃないか?」
「……」
美味しい、とは言ってくれないんだ。”おいしい”って言ってくれたんだけど、それは本当の美味しいじゃ
ないんだよね。でも本音を聞かされたとしてもどっちにしろ私は落ち込む。
次こそは…絶対美味しく作ってみせるんだから。
いつか、スコールを満面の笑みにさせて、”おいしい”って言わせてやるんだから…。
End.
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