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 スコールがここまで負けず嫌いだったなんて……と、酔い潰れてしまった愛しい人の真っ赤な顔をうっとりと眺めながら思う私でした。

 ことの経緯はこう。スコールに久しぶりのお休みが出来たので、私たちはデートをする事になった。明日どこかへ行こうと話をしていたんだけれど、日が暮れてから「少し外へ出ないか」と珍しくスコールから誘ってくれたので私も勿論嬉々として二つ返事でOKした。行き先はドール。夜景が美しいのです。

 私がどこかお洒落なBARに入りたいと言ったので、少し散策をしてから一件のバーに入りました。そしてそこでスコールは酔い潰れてしまったのです……。ここからは早めにダイジェストでお話しします。私とスコールはカウンター席に座って、お酒、じゃなくてカシスソーダ等のドリンクを片手に久しぶりに作れた二人きりの時間を満喫していました。まだ未成年だからね。私は少しぐらい、と不純な考えでいたんだけれどスコールはしっかりしていた。隣で飲んでいた客に煽られるまでは……。

 スコールは、やっぱりどうしても負けず嫌いで。喧嘩を売られたら、メラメラと静かに燃えて返り討ちにしてしまう。私はその日、そんなスコールの一面をはっきりと目の当たりにしたのでした。


* * * * * * * * * * * * *


「ジントニック。モスコミュール。マティーニ」
「す、スコール!まだ飲むの!?もうやめようよ〜!」
「……うるさい。あと……。オーガズム」
「ちょっちょっ……」


 卑猥なフレーズに思わず口隠ってしまうリノア。スコールはもう自分が何を頼んでいるかも分からないのか、メニューを見下ろしながら目に止まったカクテルを手当たり次第に注文していった。目は完全に座っていて、かなり凶悪な人相になっている。

「あ!モスコミュールってウォッカだよ!?大丈夫なの……?」

 スコールはゆらりとリノアの方を見るなり言った。

「俺がこの程度の酒で潰れるとでもいいたいのか……?」

 明らかにもう酒に飲まれているのだが、凄まれてしまうと何も言い返せないリノアだった。あたふたするリノアと、追加のカクテルが差し出される前にとうとうカウンターに突っ伏してしまったスコール。そしてその時を見計らっていたかのように、隣の男達二人が動く。

「見事な飲みっぷり!」
「そして潰れっぷりだな」

 二人の男はニヤニヤと笑いながらリノアに声を掛けた。元はと言えば、この二人がリノアに目を付けて、酒の飲めないスコールを煽ったことが原因だ。何があったのかは割愛するが、面倒なことが嫌いなスコールがその挑発に乗ったのだから相当腹の立つ絡みっぷりだったのだろう。リノアも折角のデートをぶち壊してくれたこの二人には今にも拳の鉄槌を食らわしてやりたい程頭にきており、それは次の瞬間現実のものとなった。リノアの隣に座っていた男が、肩を抱いてきたのである。そして言い放たれた言葉にリノアがとうとうキレた。


「彼氏にはそこで寝といてもらって、これから俺達と一緒に遊ばない?」

 良い店があるんだけど、と最後の台詞が言い終わらないうちに、リノアはその男の顔面目掛けて拳を横殴りにヒットさせた。惚れ惚れするようなフォームを描いたパンチは男を吹っ飛ばし、後ろにいた男も反動で倒れた。

「黙れバカ男!次会った時ただじゃおかないんだから!」
「………(強い……)」


 男達は溢した酒にまみれて唖然とした顔。マスターや他の客も唖然としていたが、どこからか「よくやった」とか、「スッキリした〜」等の声がしてくる。どうやらこのマナーの悪い二人組に腹を立てていたのはリノアだけでは無かったようだ。リノアは、マスターに店内で騒いで迷惑を掛けてしまった事と、お酒を溢してカウンターを汚してしまったことを詫びた。そして話は冒頭に戻る……。


「……大丈夫……?気持ち悪い?」


 リノアはスコールの広い背中をさする。スコールの顔は真っ赤になっていて、時々苦しそうに眉間に紫波を寄せている。

「歩ける……?」

 泥酔だった。カクテルとはいえ、あれだけの量のアルコールを摂取していればこうなるのも無理はないのだが、リノアは困ってしまう。リノアの力ではスコールを連れて帰る事は難しい。どうしたものかと悩んでいると、心優しいマスターがタクシーを呼んでやるよと助け船を出してくれた。しかしリノアはまた悩むことになる。この夜更けに勝手に二人して外出し、スコールはこの様だ。学園に帰って見廻りの教師に見付かったらどんな罰をうけるとも知れない。行きは難なく出てこれたが、この状況で帰る事は無謀だった。

「えっと……どこかに休める場所はない?お酒が少し抜けるまで、寝かせてあげたいんだけれど……」
「それならここの上で休んでくといい」
「上?」

 リノアが首を傾げると、マスターは人の良い笑みを浮かべて言った。

「ここはラブホテルを改築して建てたBARだから、上の階はそのまんまなんだ。ちゃんとした個室になってるから安心して使っていいよ」

 と。色んな意味にも取れる言い回しだったが、他に策がある訳でもなく。リノアはマスターの好意に甘えることにした。



 スコールを背負ったマスターの後に続いて階段を昇ると、立派ではないが確かにホテルのような造りになっており、廊下を挟んで個室が並んでいる。何だかとんでもない事になってしまったものだとリノアは胸をドキドキさせながら辺りを見回した。

「部屋はここでいいかな」

 戸惑っている様子のリノアを見てマスターは一言付け足す。

「心配しなくても中は綺麗だ。ここは今でもたまに使っているからね。君の彼氏みたいに酔い潰れる客がいるから重宝してるんだ」
「へぇ……」

 リノアの戸惑いの理由とは少しずれていたのだが、とりあえず相槌を打っておく。マスターは一室の鍵を開けて中へ入ると、部屋の奥へと進んでいってスコールをベッドの上にそっと寝かせた。

「だ、ダブルベッド……」
「いけなかったか?」

 思わず呟いたリノアを見てマスターはにやにやしながら顎髭を擦っている。そしてリノアが恥ずかしそうに首を横に振るのを見てフッと笑った。

「じゃあ後は彼氏と仲良くな。部屋代までは取らないから」
「ありがとう」

 リノアが振り向き様に礼を言うと、後ろ手にひらひらと手を振りマスターは部屋を後にした。

 ベッドに寝かされたスコールを見つめる。


「ムキになって無茶するから……」

 膝立ちになってスコールの髪を撫でる。その手に反応してもぞもぞと足を動かすスコール。眉間にはこれでもかと言う程に紫波を刻んでいる。

「大丈夫……?なんだか苦しそうだけど……」

 もしかしたらこの上着が余計にスコールの胸を圧迫しているのかも知れない。そう思ったリノアは、そっと上着に手を掛ける。そして自分もベッドの上に腰をかけてスコールの重く沈んだ体をゆっくりと抱き起こし覚束ない手付きで脱がしていった。

(首まで真っ赤になってる……)

「ん」
「あ、スコールっ」


 部屋の照明が眩しかったのか、スコールの瞼がぎゅっとなる。

「リノア……」

「目、覚めた!?」


 暫しの沈黙。のあと。


「吐く……」




「………え!?」
「………うっ」
「えぇぇぇぇええ!?」

 もう逆流がすぐそこまで迫っているのかスコールは右手で自分の口を塞いだ。



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あきゅろす。
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