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小説
1

「ここに居たのですか、草薙先生」

ふとした予感で裏庭に向かえば、そこには案の定アニマルと戯れている草薙一の姿があった。
天童の声に気づいたのか、一は猫を抱いたまま振り向く。その顔は甘くトロけていて、天童の足を少しだけ後退させた。

「おっ、天童先生じゃん。俺になんか用か?」
「用、という用でもないのですが……」

そう問われて天童は言葉に詰まった。
これといった用はなく、ただ彼がここにいるのではと感じて知らぬ間に足が向かっていたのだ。
どう説明すべきか迷ったあげく、天童は一のすぐ隣に屈み一匹の猫の頭を撫でた。
それが嬉しかったのか、一は笑みを深くさせて頭を撫でられている猫に「良かったな」と話しかける。どうやら、先ほどの質問は回避出来たらしい。
猫以外にも犬が数匹。中には悟郎と天十郎の愛犬、アラタの愛猫もいた。

「なぁ。先生は猫派と犬派、どっちだ?」
「どちらも嫌いではありませんが、強いて言うならば猫……でしょうか」
「だよな、だよな。やっぱニャンコは可愛いぜ。そういや、天童先生って猫っぽいよな〜」

猫派というのが相当嬉しいらしく、一は顔を近づけて楽しげな笑い声を立てた。……までは良かったのだが、次がれた言葉は予想外で天童は目を見開く。
――この男は、いきなり何を言い出すのか。
固まっている天童をよそに、一はアニマル達に対する素振りで彼の柔らかな髪を撫でた。
それには更に驚き、ほぼ反射的に手を叩き落としてしまった。瞬間、しまったと眉を寄せるも一は気にする様子を見せず、自分が悪かったとばかりに眉を下げて笑った。

「ワリィ、天童先生。ついつい癖でさ」
「い、いえ。気にする必要はありませんよ。私も少し、驚いてしまっただけですから」

あまりに突然過ぎて動揺が隠せない。心臓がバクバクとうるさく鳴っている。――なんなんだ、これは。
チラリと彼の様子を窺い見れば、既に興味は天童からアニマルに移ってしまったらしい。タマの顎を優しく撫でたり、楽しそうにしている。
それが何故か、妙に寂しい。

「草薙先生は……」
「ん?」
「貴方は、犬みたいですね。しかも大型犬だ」

ふと出た言葉に、自分でも驚いた。ただ単に、意識を自分に向けてもらいたいだけだったのだが……。変に思われただろうか。
だが、そんな不安は一の笑い声で掻き消えた。

「じゃあ、俺がワンコで天童先生がニャンコだな。なんか、先生とは話が合って嬉しいぜ」

それは、とても嬉しそうな笑顔で。天童は無意識に頬が熱くなるのを感じた。

「そういや先生って、次の休みは暇か?」
「ええ。特に予定はありませんが、何故ですか?」
「先生もアニマル好きみたいだしさ。俺ん家で一緒に、アニマルDVDでも見ねぇか?」

突然過ぎる誘いに天童は瞳を丸くする。彼にとっては、ごく自然の事なのだろう。それは解っている。――解ってはいるが、この高鳴りはなんだろう。……まさか、喜んでいる?
自分でも解らない感情だけれど、不思議と嫌悪感はない。むしろ、心地いいほどだ。彼の持つ雰囲気が、とても落ち着く。

「天童先生?」
「……そう、ですね。考えておきます」
「そっか。じゃあ、来れるようなら来てくれな」

なんとなく。なんとなくだが、即了承したら負けるような気がした。もちろん勝ち負けなど関係ないが、気分の問題だ。
それから暫く、一と天童はアニマルの相手をしながら他愛ない話をした。
アニマルの話をする一は本当に楽しそうで、表情も優しく柔らかい。そんな彼の横顔を見る天童も、同じくらい柔らかな笑みを浮かべていた。



――この感情は、まだ出来たばかりの蕾。だから、名前など知らない。
蕾から花を咲かせてくれるかも、今はまだ解らないけれど……。




「今は神のみぞ知る、といったところでしょうか」






―終―



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あきゅろす。
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