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小説
1

ここ最近、慧は機嫌悪く眉をひそめる事が多くなった。

――全ては、あの新任教師が来てからだ。

A4の面倒を一手に引き受ける事にしたため、そのサポート役が必要と新任教師は弟の那智を指名してきた。
その時は誇らしいと思ったが、今ではイライラの元凶になっている。
生徒会の仕事をしながら時折、入口付近に視線を向ける。その先には、楽しげに会話を交わす那智と真奈美の姿。
見なければ良かったと後悔しても遅い。イライラは更に深まり、無意識に机を叩いていた。
その音に驚き、二人は慧を見遣る。ビクビクしている真奈美とは正反対に、那智はどこ吹く風と笑顔を携えていた。

「おい貴様っ!ここは生徒会室だ。お前は生徒会の人間ではない。……用もなく立ち入るな!」

真奈美一人に対する怒りの言葉に不公平だと思いながらも、ここで反論すれば火に油。
渋々といった様子で、真奈美は那智に「また放課後」と言い残し生徒会室を後にした。
それから数拍置いて、那智は小さな笑い声と共に、真奈美を哀れむ言葉を溢した。

「そんな言い方したら先生が可哀想だよ?兄さん」
「フンッ!そんなにあの教師が好きなのか?お前は」
「ん〜。まぁ、気に入ってはいるかな。ほら、色々と面白いじゃない?」
「なら、さっさと追えばいいだろう。楽しく話をしていたみたいだしな」

すっかり拗ねてしまった様子の兄の姿に、那智は愛しげに瞳を細めた。そんな兄を宥めるように後ろから腕を回せば、慧はその腕に頬を寄せた。

「ごめんね?兄さん。……もしかしなくても、妬いた?」
「……お前が悪いんだろ。僕に見せつけるように、あんな教師と仲良くして」

また繰り返し「ごめんね」と告げれば、慧は立ち上がり那智の身体を近くの壁に押しやった。
その間、那智の抵抗は一切無い。

「お前は、僕のものだ。解っているな?」
「うん、解ってるよ。そして兄さんは、おれのだからね」

こんな関係は駄目だなんて思わない。互いが互いじゃないと、もう駄目なんだから。

――もっと嫉妬してよ、兄さん。そして、もっと実感させて。

「好きだよ、慧」
「ああ、僕もだ那智」

互いに甘く愛を囁き、唇を寄せて重ねる。
伝えきれない想いが、この唇をつたって伝わればいいのに……。
何万回"好き"と伝えても足りないんだ。


「ねぇ、兄さん」
「なんだ?那智」
「もっともっと、好きって言ってよ」


――おれも沢山、想いを返すから。







―終―



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