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小説
1

今日は休日で、朝から天十郎は千聖のもとを訪れていた。
ソファに座る千聖を肩から優しく抱きしめ、顔を埋めれば愛しい人の香り。
千聖は天十郎にとって従者兼親友で、恋人でもある。幼い頃からずっと一緒に過ごしてきたのだ。今では、好きになるのも必然だったように思える。

「天、擽ったい。いい加減離れろ」
「あんだと!せっかく恋人との甘い時間を過ごそうってのに、んな言い方することないだろ?」
「…………」
「……千?」

急に押し黙った千聖に首を傾げ様子をうかがい見ると、頬を赤く染め俯いていた。
何か変な事を言ったかと訝しげに見つめていれば、千聖はわざとらしく咳払いをしてチラリと天十郎に視線をやった。瞳には、呆れと照れが入り交じったような色が宿っている。

「……恥ずかしい奴め」
「何言ってやがんだ。本当の事だろ?」

それが恥ずかしいというのに……。千聖は更に紡ごうとしたが、あまりにも素直で純粋な彼の想いに口を結んだ。
また黙ってしまった千聖に、今度は笑いが込み上げてきた。
彼の表情が柔らかく、嬉しそうに瞳が細められていたからだ。
へへっ、と照れ笑いをしながら千聖を抱く力を強めた。とても愛しい存在が離れないよう、強く強く抱きしめる。

「天、痛いぞ。いい加減離せ」

予想通りの悪態。でも離さない。
そんな天十郎に小さく笑みを溢し、その腕へ頬を寄せた。
静かな空気が流れる。それは決して居心地が悪いものではなく、甘く優しい空気。
そんな空気を互いに暫く味わっていると、不意に千聖が腕をのけて立ち上がろうとした。

「お前のために作ったデザートがあるから、持ってくる」

腕の中から抜けていく温もりに寂しさを覚えて、考える前に手が動いていた。
掴まれると思っていなかった腕に、千聖は瞳を大きくして驚く。

「……天?」
「あー……デザートは後で食う。だから、今は……ここにいろ」

嬉しさに頬が綻ぶ。素直に求めてくる相手が愛しくて堪らない。けれど口には出さない。
天十郎のことだ。絶対に調子に乗るだろう。

"ここにいろ"――千聖にはそれだけで十分だった。
彼が、……彼だけが、自分の存在意義。
仕える運命だから。そんな事は関係なかった。彼が好きだから。それで十分だ。
目の前にいるアホで、素直で、一直線な彼が好きなのだから。

「――天」

気づけば自分から唇を重ねていた。

「せ、……千!?」
「そこまで驚くことは無いだろ?失礼な奴だ」
「し、仕方ねぇだろ!千からなんて、滅多にねぇんだからよ」

それには一理ある。……だが、なんとなく納得出来ず背を向けると、天十郎は慌てたように回り込んできた。

「ワリィ!俺が悪かったから、もう一回!な、いいだろ?」
「……断る」

今思えば、自ら接吻などと恥ずかしくて堪らない。
それでも天十郎は引かず、千聖の肩を掴んだと思えば力任せにソファへ押し倒した。

「な、何をする!」
「何って、キスに決まってんだろ」
「ふざけ――――!っん、んぅ」

罵声を浴びせる前に、千聖の唇は天十郎によって塞がれてしまった。
それは先ほどのモノより深く、甘く、熱いものだった。
なぞられる上顎、絡まる舌。脳が溶けてしまいそうなほど気持ちがいい。

「――っは、ぁ。このアホ天!」

やっと唇が離れると銀糸が引き、それがまた千聖の羞恥を煽った。

「うっせー!いいじゃねぇかよ。――好きな奴とは、キスしたくなんだろうが」

真剣な表情で、天十郎はソファに横たわる千聖の身体を抱きしめた。
――それは甘い束縛。千聖の心が跳ねる。

「好きだ、千」

甘い甘い、愛の言葉。
己を甘く捕らえる言葉。
心地のいい響き。

「知っている」

ぶっきらぼうに答えれば、天十郎はまた眉を寄せた。
その瞳には「ちゃんと答えろ」という不満の色が宿っている。

「――俺もだ、天。誰よりも好きだ。お前も知ってるだろ?」
「おう!当たり前だろうが。ずっと一緒にいような」

輝く瞳が愛しい。邪気のない笑顔が愛しい。
もっともっと、その優しく甘い言葉で縛ってくれ。

『好きだ』

重なる愛の言葉。
重なる互いの唇。
重なる想い。

そして、また重なる言葉。





『――愛してる』










―終―
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