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小説
1

それはアホサイユで、千聖の作ったデザートを食べていた時のこと。
小皿に乗ったプリンにスプーンを差し込みながら、アラタはご機嫌な様子で何の気なしに言葉を吐いた。

「相変わらず美味しいね。チィちゃんは、いいお嫁さんになるよ。いやいや、マジマジドマジで。なんなら、オレのお嫁さんになる?」

その瞬間、その場にいた全員が瞳に殺気を宿し、天十郎がアラタに掴みかかった。
その後ろでは可愛らしい笑みを浮かべているが、目がまったく笑っていない八雲。

「あぁ!?何言ってやがんでぇ!千は俺様のだぞ」
「ちょちょちょーっと待ってよ。それは従者兼お友達としてでしょ?お嫁さんは、また別の話だとオレは思うんだけど」
「そうだよ?てんてん。ふーみんは、ぼくのって決まってるんだから。――手ぇ出したらどうなるか、解ってんだろうな?」

可愛らしい顔からは想像も出来ないドスの効いた脅しに、思わず二人は震え上がるが千聖の事となれば、そう簡単には引けない。
その話題の中心人物といえば、我知らず関せずを装い遠くから欠伸をして眺めていた。これも今では日常茶飯事で、止めに入るのが面倒になってしまった。
このまま放っておけば、勝手に終わってくれる。八雲が変な事を言い出すまでは、そう思っていた。

「じゃあ、じゃあ、誰が一番ふーみんに相応しいか、勝負しない?もちろん、ぼくは負ける気ないよ〜」
「おっ、そりゃ面白そうだな。俺様だって負ける気ねぇぜ?なんたって、千とは長い付き合いだかんな」
「オレもオーケーだよ、やっくん。男の魅力で、チィちゃんをメロメロにしてあげるからさ」

それぞれの言葉が耳に入った瞬間、千聖の背中に冷たいものが走った。このまま、この場に居たら面倒事に巻き込まれる。そう察知した千聖は、急いでアホサイユを出ようと歩を進めた。――が、時既に遅し。
ガシッと、強い力で肩を掴まれてしまった。振りかえれば、ニコニコと楽しげな笑みの八雲。同じ事を言うが、目はまったく笑っていない。

「どこ行くの?ふーみん。――まさか、逃げようとしたんじゃねぇだろうな?」
「い、いや……。そろそろ補習の時間かと思ってな」
「そんなの大丈夫だよ〜。今は、それより大事な問題があるんだから、ふーみんはここに居てね?勝手に居なくなったら、……解ってるでしょう?」

――何故だろう。今日の多智花からは、黒いオーラばかり漂っている気がする。

解りやすい嘘はやはり見抜かれ、八雲の手により千聖は引き戻されてしまった。
それを待ってましたとばかりに、満面の笑みを浮かべる二人。

「じゃあ、最初は俺様からな」

面倒だから、と拒否したい千聖だったが、この状況でそんな事を言えばどうなるか……。頭が痛くなってきた。
そんな彼の様子など知るよしもないまま、天十郎は意気揚々と千聖の前に立つ。

「なぁ、千。お前は、俺様を選んでくれるよな」
「……言っている意味がまったく解らん」
「あんだと!?千の事を一番解ってんのは、俺様だかんな。だから、その……俺様のヨメになれ」
「………………」

この際誰でもいいから、こいつにツッコミを入れてくれ。千聖は心底そう願ったが、こういう時に限って助け船は来ない。
沈黙が長く続きいたたまれなくたったのか、天十郎は「ああああ――――っ!!」と大声で叫び、勢いのまま千聖を押し倒した。ゴスッ、と鈍い音がしたのはご愛嬌。



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あきゅろす。
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