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重症


ガラガラッ


「…、……。」


朝、教室に入ってまず目に入ったのは、じっとりと己の携帯電話を睨むダイゴだった。


「おはよう。」

「…おはよう、ミクリ。」


暗い顔を上げたダイゴにため息。しかし私のため息が途切れるより早く、ダイゴは携帯に目を戻した。もう一度、ため息。

きっと彼女からのメールの返信を待っているに違いない。一途と言うか何と言うか、重いと言うか…、…正直、引く。申し訳ないが、親友である私でさえそう言いたくなる程の不気味さとある種の気持ち悪さが漂っていた。


「ダイゴ、」

「…何。」

「…そんなに睨んだって仕方ないだろう?」

「別に、睨んでないよ。」

「その内来るから、ほっといたら?」

「…何が。」

「メール。」


ムカつく、全部わかったような口振り、君はいつもそう、拗ねた様なダイゴがつらつらと並べ立てる。拗ね方は小学生の頃からちっとも進歩していない。思わず苦笑が漏れた。


「何笑ってるの。」

「いや、変わらないなあって。」

「…どういう意味?」

「まあまあ。それよりやっと昨日彼女の名前もメアドも手に入れたんだ、気長にいこう。」


君は顔は良いし素行もそれなりに良いんだから、とは飲み込んでおいた。調子に乗らせて失敗されたらたまったもんじゃない。それにただでさえダイゴは、俗に言う"残念なイケメン"と呼ばれる部類に片足突っ込んでいるのだ。


「…全部わかったようなのは君だけじゃないからね。」

「…なんのことだい?」


ジロリとこちらを睨むダイゴから視線を逸らした。それから咳払いを一つして、話を変える。


「それより、メール、何て送ったんだ?」

「……え?」


今度はダイゴが視線を逸らす番だった。口を引き結ぶその顔が、真っ赤に染まる。…ちょっと待て、恥ずかしくなるような内容を送ったのか?まさか深夜に考えた文章じゃないだろうな!深夜に書いた手紙やポエム程恥ずかしいものは無いz…いや、無いらしいじゃないか!

慌てて、思わずダイゴの携帯を掴む。


「ちょ、何するんやめ、うわああやめ、ううわあああ!!」

「改めさせてもらおうか!!」

「ちょ、わ、ミクリ…!」


丁度受信ボックスが開かれていたため暗証番号は不必要だった。クリアボタンを一度押して画面を一つ戻し、送信ボックスを選択する。


「……………。」

「………。」

「………、親父親父ミクリ親父ミクリシロナ先輩ミクr」

「読み上げるな!」


ダイゴが私の手から携帯を奪った。こちらを睨むその顔は、未だ赤いまま。

無い。彼女――ナマエという名前は、無かった。それが意味するところは一つである。


「…ダイゴ、メール…」

「……そうだよ?送って無いよ?」


顔を逸らすダイゴに言葉を失う。ちょっと待て待て、昨日貰ったアドレスに昨日送っていないと言う事は、もうメールしにくい状況になっているだろう?わかってるのか?チャンスを逃しているとわかっているのか?

漸く取り戻した言葉をダイゴに向ける。


「今からでも…」

「話題が無い。」

「メアドありがとうとか…」

「もう一晩経った。」

「と、とにかくありがとうに何か適当にくっつけて…」

「………。」


不気味な程に弱々しいダイゴの顔を覗きこみ、息を飲んだ。私はどうして今まで気付かなかったのか。暗い顔のダイゴの、真っ黒い隈に。


「もしかして、」

「皆まで言わないでくれる。」

「………。」


どうやら親友の恋煩いは、




重症の模様
(泣くなダイゴ。)
(泣いてない。)







110217
うちのダイゴさんは
本当に残念なイケメン




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