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教えて




「意地っ張り。」

「!」


帰りのホームルームを終えて鞄を持つと、席を立つ前に聞き覚えのある(どちらかというと嫌な)声が降った。


「ミクリくんから聞いたわよ〜、好きな子が出来たって。しかも早速意地張ったってね。」


どうやら僕は親友に売られたらしい。金髪の元生徒会長がにっこりと微笑んで僕を言葉でつつく。この顔は知っている、新しい玩具を見付けた時の顔だ。決して後輩の相談に乗るための笑顔ではない。


「メアドどころか名前もクラスも知らないんでしょ?あーもう終わったわね、即どっかのに盗られちゃうわー。」

「で、何の御用ですかシロナ先輩。」

「…委任式も終わったし、元生徒会と現生徒会でご飯食べてプリでも撮らない?って話。」


元生徒会長──シロナ先輩の言葉を無視し本題を問うと、面白くなさそうな顔をしてから答えてくれた。この嫌がらせに近い囃し立てはこれからも当分続くんだろうと思うとミクリを恨まざるを得ない。


「で、私バレー部なんだけど、彼女うちの部なの。」


にっこり。ぽかん…。わざとらしく笑んだ先輩と、間抜けに惚けた僕。


「それは…」

「メアド、欲しいんでしょ?」


確かに欲しい。喉から手が出るほどに、何でもいいから切っ掛けが。…いや、早まってはいけない。目の前の先輩の笑みは悪魔の微笑みだ。決して天使のそれではない。しかも、僕は既に小さな切っ掛けを得ているじゃないか。


「……別に…」

「そうよねぇ〜、下手にがっついてるように思われたら嫌よねぇ〜。」

「……っ、…」


正直、断腸の思いである。それを察した先輩は更に笑みを深くした。こんなに悔しいのは何時ぶりだろう。


「あ、そうそう。さっき"彼女"に会ったんだけどね、」


名前を伏せ、わざわざ彼女呼びな辺りがとても嫌みだ。


「放課後こっちに寄るみたいよ。」

「…!」

(放課後って、今…!)


弾かれるように教室の扉を見やると、ミクリと談笑する彼女とその友達。


「ああ、大分前に来てたわね。」

「……!な、…」


どうして教えてくれなかったんだ。そう言おうとすると、ミクリが横槍を入れた。


「ダイゴ、話終わった?一年生がきているよ。」


にやにやと普段と違う卑下た笑みを浮かべるミクリを睨もうとして、止める。彼女がおどおどとこちらを見ていたからだ。出来得る限りの穏やかそうな笑みを作り、うるさい心音を無視する。上手く歩けていない気がしたが、ゆっくり歩を向ける。


「どうしたの?」

「あ、あの、覚えていないかもしれませんが…これ、」

「ああ、わざわざありがとう。」

「いえ!本当にありがとうございました…っ!一応洗濯はしたんですけど…」

「平気だよ。僕が勝手にやったことなんだから、気にしないで。」

切っ掛けを掴まなければ、何とか掴まなければ…。必死に頭をフル回転して会話するも、それはどんどん勢いを無くし、切っ掛けから遠くなっていく。どうしよう、どうしよう。内心汗だくな僕の後ろから、救いの船が出た。


「あれ、こんにちは!」

「あ、こんにちは!」

「こんにちはー!」

「どうしたの?」


先輩がわざとらしく知らない振りをしながら会話に入ってくる。普段ならそのわざとらしさに気分を害しているところだが、今回ばかりはありがたかった。

彼女らが一通り説明すると、先輩は興味なさげに"ふうん"とだけ言って携帯電話を取り出す。


「そういえばメアド聞いてなかったわ。教えてくれる?」

「あ、はい!」


先輩の一声で彼女たちは可愛らしいストラップのついたケータイをポケットから引っ張りだした。先輩が、"今だ。"そう目で言っている。ミクリを振り返るとやはり同じように思っているらしく、意味ありげに頷いた。

けれど、僕は動けない。

だって、不自然だろう。部活の先輩でも何でもないのに、メールアドレスを教えて欲しいだなんて。…がっついてるだとか、必死だとか、そんなこと絶対に思われたくない。しかしここでチャンスを逃したら、本当に

『メアドどころか名前もクラスも知らないんでしょ?あーもう終わったわね、即どっかのに盗られちゃうわー。』

あの言葉通りになってしまう。どうしたものか。


「ありがとうございます!」

「いいえー。」


そうこうしている内に赤外線での交換は終わってしまった…。早すぎる。


「……。」


もはや茫然自失と言った状態の僕に、二人分の視線が突き刺さる。痛い。いろいろなところが。


「じゃあ、ダイゴ先輩、」

「え?」

「ありがとうございました。」


ふわり。優しく笑んだ彼女は一礼して去っていく。繋がりが、消えていく。


「バカ!あーもう、…バカ!」

「…バカっていうか、…バカだね。」


うるさい、うるさい。僕の気も知らないで。そう思い先輩を睨むと、細い指が僕の足にのびる。


「今を逃したら、本当にないわよ。なりふり構わず行ってきなさい。」


ポケットのケータイが僕の胸に押し付けられた。彼女は、まだ隣のクラスの前を歩いている。


「いいの?盗られちゃうわよ。」


冗談。僕は何かを横取りされたことなんて、今までに一度だってない。

ケータイを受け取り、言葉をもって彼女の背中に追い縋る。


「ねえ!メアド、」




教えて
「先に名前でしょ…」
(……!!!)







100916
私の脳内イメージで、
シロナさん>>>ダイゴさんです
※これは子供っぽくて引く程
必死すぎるダイゴさんを
プッシュするお話です※




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