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ごめんだよ




「何だか、機嫌がいいね。何かあったのかい?」

「…別に?」


さすが、ミクリは全てお見通しのようだ。

僕は先日、どうやら一目惚れしてしまったらしい女子生徒にハンカチを貸した。彼女は返してくれると言ったのだが、残念なことに僕はクラスと名前を告げるのを忘れてしまったのだ。(今思えば、緊張していたのかも。)柄にもなく少し落ち込んだが、よくよく考えれば、自分は生徒会長という役割を貰う為に壇上挨拶があることを思い出す。そうすれば彼女が僕を忘れていない限り、僕のクラスも名前も伝わるのである。

そう知ってから、今日この日をどれだけ楽しみにしていたことか。恥ずかしい程に舞い上がる気分を押さえ付けていたつもりだが、そこは一応親友、ミクリが気付くことは恐らく容易なことだろう。


「…彼女絡みか。」

「…、…さあね。」


完全に図星。はぐらかしても、小声で言ったあたり、ミクリは確信して言ったのだろう。


「ところで、彼女の名前、聞いてもいいかい?さすがにいつも彼女彼女、じゃあ呼びにくいし会話しにくい。」

「……。」


悪気がないだけにミクリの言葉は僕の心を突き刺した。…知っていたなら、僕がとっくに呼んでいる。


「……。」

「…、…本当に、一目惚れ、だな。」

「うるさいな…。」


ミクリは一度目を丸くした後、感心した様にゆったりと呟いた。僕はどうにも悔しくて、目を彼の反対方向に逸らす。すると何という偶然だろうか、視線の先には件の彼女が友人とハンカチを持って話していた。


「ダイゴ?」

「……、何。」


数秒動きの止まった僕を不思議に思ったのだろう、ミクリは僕の名前に疑問符を付ける。僕は彼女を隠す様にミクリに向き直った。しかしまあ彼も目敏いことで、直ぐに隠したものはバレてしまった。


「ああ、なるほど。」

「…、」


妙に気恥ずかしい。その上、僕を見付けたらしい彼女らの声まで背中に浴びるとなると、滅多にしない緊張も最高潮だ。


「ダイゴ先輩!ほら、今渡しちゃいなよ!」

「え?ええぇ?」


背中の彼女が、とても気になる。僕を忘れていなかったんだな、とか、どんな顔で僕を見ているんだろうか、とか。


「ちょ、ナタネ…!」


思わずちらりと振り返ってみると、彼女とくるり、視線が絡む。彼女の桜色の唇がきゅ、と閉じ、大きな瞳が僕を捉え、瞬間、時が止まったような錯覚を覚えた。

長くも短くもないコンマ何秒の後、我に返って慌てて視線を解く。だって僕は、こんな所でついでのようにハンカチを受け取るなんて、




絶対ごめんだよ
(僕に会う為だけに)
(教室においで。)







「…意地が悪いね。」
「…まあね。」
100706
短い…




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