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悲しい




「どうしよう…」

「どうしようって…返すしかないんじゃない?」

「そ、れはそうなんだけど…!」


ナタネのもっともな意見に、上げていた視線を再び下に這わせる。


「でもさあ、それ結構なブランドだから持てる人って限られると思うのよね。」


それ、とナタネが顎で差したのは洗濯されたハンカチ。私はつい先程までそのハンカチが大層なものだとは知らなかった。判明したきっかけは借りたハンカチを返したいけれど、クラスも名前も分からないと言う話をした際、ナタネが興味津々に見せるよう催促したためである。


「で、生徒会か風紀委員でしょ?」

「多分…」

「じゃあもう分かるわ。」

「へっ?」

「ダイゴ先輩だと思うんだけど。」

「だ、ダイゴ先輩?」


ナタネが言った名前に首を捻る。見たことがないのでダイゴ先輩と言う人を想像してみた。何だか、別の人、が、…


「わからなうぃっしゅ。」

「ちょっとネタ古い。ていうかダイゴ先輩って聞いたことあるでしょ?」


ナタネの言葉にもう一度頭を捻る。そういえば、2年生の先輩にそんな人がいた気がする。あまり目にしたことはないけれど、女子の間で名前はよく聞く、と思う。


「わかった、かも?」

「ほら、今年の生徒会立候補してた先輩。で、当選してたじゃん。」

「…ううぅ、ん…?」


生徒会は毎年5月に選挙があり、それでメンバーが入れ替わる。3年生は含まれない。うちのクラスは確かリョウくんが立候補して、私は彼とあとは友達が入れようと言った人に投票した。確か選挙活動だとかでお昼の放送や放課後も何かやったりしていたな、とぼんやり思い出す。が、やっぱりダイゴ先輩には覚えがない。


「ほんっと疎い!疎すぎる!…まあ、多分ダイゴ先輩であってるから、今日クラス聞き逃さないようにね。」

「…うん。」


そう、今私たちがいるのは体育館の外。ぎゅうぎゅうと詰まりながら歩く廊下は息苦しい。今日の全校集会では生徒会委員の委任式やらが主な事柄になる。つまり、当選した生徒は壇上に上がって挨拶があるのだ。私は壇上には上がらないけれど、上がる人同様に気を引き締めた。


「!あっ、ちょ、ナマエ…!」

「なに?」


くいくいと私の袖を引きながら、小声で必死に何かを訴えるナタネ。何事かと首を傾げると、もはや小声になっていない声量で、


「ダイゴ先輩!ほら、今渡しちゃいなよ!」

「え?ええぇ?」


急なことに驚く間もなく、ナタネはぐいぐいと私の手を引く。それに押された生徒が嫌な顔をした。


「ちょ、ナタネ…!」


ナタネの言うダイゴ先輩は、確かにあの日私にハンカチを貸してくれた人物に違いはなかったけれども、ダイゴ先輩を色んな子が盗み見ている中に踊り出るのは気が引けるし、まず渡すと言っても心の準備位はしたい!そう思いナタネに逆らってその場に留まろうとした。


「!」


ばち!ナタネと揉めている途中、タイミング悪くダイゴ先輩と視線が絡まる。が、どうしようと考えるより早く、その視線をダイゴ先輩が解いた。そして、何事もなかったように、早足にそこを立ち去って行く。


「あ、あーっ、行っちゃった!もう!ナマエ…」


それを見送ってからがっくりと肩を落としたナタネが振り向いて、何故か大きく口を開けたまま止まった。


「ご、ごめん、また機会あるよ!ほら、教室一緒に行ってあげるし…!」


そして突然謝りだしたナタネ。何が何だか分からず、再び首を傾げた。


「だからそんなに気を落とさないでよ!」


言われて初めて気付く、自分が酷くへこんでいる事に。

目が合ったのは私の勘違いだったのかもしれない。だけどもし、何の気にもとめられなかっただけだったなら、




酷く、悲しい
(誰だってそうでしょう?)
(誰にだってそうでしょう?)







100601
ナタネ、好きだけど口調
わかんね/(^O^)\




あきゅろす。
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