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君の不幸は




入学式の日、生徒会委員にあてられた仕事は新入生にリボンを渡すこと。正直、面倒で仕方なかった。他の生徒が休みなのに自分達だけ登校し、一人一人に小さな造花のついたリボンを手渡す。面倒だと繰り返し脳内で呟く僕の傍らには、金色の髪の生徒会長。彼女はそれはもう完璧鉄壁の笑顔で新入生に祝いの言葉を述べたりしながらリボンを丁寧に渡していた。新入生に罪は無いのだし、僕もそれに習わなければ。爽やかだと形容される笑顔を浮かべ、おめでとうと言い続けた。


こつん、機械的な作業をしていた空間に、新入生の騒めきとは違う音が響く。反射的に目をやると、転がっていたのは小さな人形。その先にはブレザーのポケットからはみ出した携帯ストラップ。落とし主はストラップが一つ減った事に気付かないまま出席番号順を崩さないよう歩いていく。


「あ、」


言うより早く隣の会長が動いた。必然だ。彼女は僕より体育館側、つまり落とし主の進行方向側にいたのだから。他の委員が忙しなく動く中、新入生の合間を縫い人形を拾い、落とし主の女生徒の肩を叩いた。


「きみ!これ、落としたでしょ?」

「えっ」


女生徒は慌ててストラップを確認すると安堵の息を吐きながら会長から人形を受け取る。コンマ何秒、視線は人形から会長に向く。僕の視線は会長越しに彼女から逸らせずにい、た。


「ありがとうございます!」


嬉しそうに目を細めた彼女から目が外せない。彼女は会長を見ているのだけど、そんなことはどうでもよくて。


「ダイゴ、手、止まってる。」

「え?あ、」


結局、会長が僕に声を掛けるまであの女生徒の背中を見送ってしまった。ああなんてことだ。会長はにやついている。ああ、なんてことだ。

貴女が僕と逆の位置に立っていたら、彼女に微笑まれたのは僕だったのに。ただ位置がそうだったから、彼女は貴女に微笑んだんだ。だからそんなににやつかないで欲しい。


「惚れちゃった?」


元の作業に戻ったと言うのに相変わらず愛想笑いに戻らない会長の言葉は、僕の脳みそで咀嚼されることはなく、ただ穴から穴へ抜け出でた。




















(そろそろ戻ろう。)


朝の生徒会の仕事も変わらず、ただ面倒の一言に尽きる。その上今日は彼女が通らなかった。面倒に付属していた楽しみが削がれ、本当にただだだ面倒でしかたないことを再確認。彼女は部活にでも入ったのだろうか?朝練があるのなら早い時間に校庭に近い正門を使うはずだから見掛けることは無い。

誰が見てるでもないので隠さず溜め息を一つ溢し、気だるいまま校門を引く。がらがらがらり、校門の車輪の音に合わさって足音が聞こえる。誰か来るのだろう。走っている様だから少し待とうかと手を止めたと同時、砂利を擦る音と驚く声。声からすると女生徒だったので、仕方なく曲がり門から通りを覗いてみた。

刹那、一度呼吸が止まった。投げ出されたカバンについたキャラクターに見覚えがあるし、何より膝をぺったりとつけて俯く女生徒は毎日見掛けている。

にやつく口角を下げることが出来ない。ああ、やっとやっと、あの笑顔は僕に向けられるんだ、僕に。記憶の中のにやけた生徒会長に叫びたい気持ちでいっぱいだ。



「ありがとうございます、必ずお返しします!」



ほら、ね。




君の不幸は  
   

(何でだろう、)
(甘くて堪らない)







100423
ダイゴさんはまだ恋を
している自覚無し。




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