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見当もつかない




「はっ、はぁ、」


人通りの少ない道を駆け抜ける。

周りには同じ様に走る学生や、自転車を漕ぐ学生。

うちの高校は正門と裏門があるけれど、裏門は朝の予鈴までしか開いていない。そうなると学校を半周しないといけないし、正門は教室からよく見えてしまう。遅刻確定な上にそれは恥ずかしい。

でも大丈夫、間に合いそうだ。直ぐ先の門を曲がれば裏門。


ガラガラガラ・・・


と思ったら裏門の閉まる音。マズい。いや、担当の先生か生徒会委員が門から離れる前ならまだ間に合うはず。

ザッ、


「は、・・・あっ、わっ!?」


ズシャッ


「〜〜〜っ!!」


砂利の擦れる嫌な音が耳を撫でた。と思うと自分は潰れたカエルの姿勢になっている。恥ずかしい。さらに、思い切り勢いをつけて転んだためかなり痛い。あと少しだったからって慌て過ぎた・・・。

しかも声まで出してしまって、穴があったら入りたいとはまさにこのこと。周りに人がいないのが唯一の救いだ。


「・・・・・・。」


裏門も無遅刻も諦めるしかない。一気にやる気が失せて、のろのろと立ち上がる。


(あ・・・、)


はたり。気付くとカバンがない。転んだ拍子に落としたのだろう。どうしようもなく恥ずかしいと同時、本当に見られていなくてよかったと安堵した。

落としたカバンを拾おうと顔を上げる。カバンは直ぐ見付かった。


────目の前に。


「っ!?」

「大丈夫?」

「え、あ、ありが、とうございます・・・っ」


目の前に突き出されたカバンを慌てて受け取る。余りの恥ずかしさにかぁっと頬が熱くなった。見られていたんだろうか。


「音とね、声が聞こえたから。」


にこりと爽やかに笑う青年は先輩だろうか。大人っぽい。浅葱色の髪と整った目鼻立ちが更に何だか爽やかで、外見で得をしてるなぁなんてぼんやりと考える。そう、ぼんやりと。

頭の半分は冷静に状況を把握しているが半分はパニックを起こしている。彼からみた私は不審者並みに挙動不審だろう。

私が挙動不審になるのは未だ爽やかに微笑む彼の腕に腕章があるからである。・・・つまり校門、今日の担当の生徒会委員にまで聞こえていたんだ。これが恥ずかしくない訳がない。


「すいません・・・っ」

「ふふ、いいえ。・・・あ。」

「?」

「足、大丈夫?」


余程強く打ったのか未だジンジンと痛む足に視線を落とす。

じわりと滲んだ血がゆっくりと靴下に届こうとしていたので、慌ててカバンを漁りティッシュを探す。しかしそれが見付かるより早く血が拭われた。


「・・・はい。」

「え、あの・・・。」

「使っていいから。」


血液のついたハンカチを半ば強引に手渡され、困惑しながらそれと先輩を交互に見やる。


「ほら、遅れちゃうよ。まだ間に合うから、急いで。」

「でも、」

「いいから。」


背中を押され振り替えると、僕も遅れちゃうんだけど。と先輩が笑顔で呟いた。笑顔が怖いと思ったのは生まれて初めてかもしれない。


「ありがとうございます、必ずお返しします!」

「待ってるね。」


再び伝う血を一度拭い、痛む足を叱咤して駆け出した。

ドキドキと高鳴る心音は単に全力疾走によるものなのかあの笑顔が怖かったからなのか、




見当もつかない
(あ、クラスと名前・・・!)
(どうしよう!)







「あ、クラスと名前言い忘れた。」
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あきゅろす。
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