ぴたり
『ノボリお兄ちゃん!』
まるで星を詰め込んだかのように輝くあの瞳が、私を惹きつけて放さなかった。
『わたしね、ほんとはノボリお兄ちゃんがいちばんすきなの!』
"僕とノボリ、どっちが一番すきなの?"そう言って彼女を困らせていたクダリに、"どっちもすきだよ"と答えていた彼女。その彼女がたった一度、内緒話をするように私の耳に吹きこんだ言葉が私を焦がした。
輝く瞳に嬉しい言葉。私が兄だからこそ得られるそれを手放したくなかった。ずっとずっと、変わらない関係と変わらない親愛の情が欲しかった。
だから私は、一歩踏み出すことをしなかったのだ。
「クダリくんって呼んでよ。」
「えっ?…なんで?」
「いーから!僕、クダリくんが、いーの!!」
「えっと…、クダリ…くん?」
「そう!」
一歩踏み出したクダリの隣、私の心臓はどくどくと嫌に煩かった。
「ノボリは?いいの?」
「………。」
「…私は、」
私の欲しいものは、もう手に入っている。入っているのだ。それを見す見す逃す真似を誰がしようと言うのだろう。だから一歩踏み出すなんて馬鹿な事、出来やしない。
「私は、お兄ちゃんがいいです。」
そうして私はあの日からずっと、もう何年も、一歩も動けずにいるのだ。
ぴたり
120908
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