くだらない
『別れようか。』
『……そうだね。』
数時間前に交わしたその言葉。どちらから切り出したのかは忘れてしまったけれど、そんなことは何の問題でもなかった。お互い、思う所は同じだったはずだから。
こうなるのは何人目だろう。付き合っていてもいなくても、最初のデートはバトルサブウェイのマルチトレイン。そうしてデートは最初で最後となる。今までの全員が私のワンマンプレーに呆れて去っていった。チームプレイをする気が無い?僕をサポートする気が無い?自己中心的なバトルスタイル?馬鹿を言わないで。足手纏いにレベルを合わせてバトルなんて出来やしない。腕に自信があるみたいなこと言っておいて、皆実力不足。呆れるのはこちらだと言うのに、私が悪いみたいに言わないで欲しい。
「……はあ…。」
溜め息は、じめじめと纏わりつく残暑の空気と一緒に、私を更に鬱々とさせる。ライモンの煌びやかなネオンを眺めながら思い出すのは、クダリくんの妙に輝く笑顔。
『ぼく、クダリ。ノボリと一緒に勝てちゃった!だけど次に戦えばどうなるかまったくわからない。』
決まった台詞を聞くのは何度目だっけ。もう覚えてしまった。
『だから待っている。きみたちがここに来ることを!』
思ってもないことを告げる唇は、怖いくらいににんまり弧を描いて、私達を、いや、彼を嘲笑っていた。クダリくんは時々性格悪い。私の隣に立つ男の子には特に。嬉しいような、困るような、複雑な気持ちだけれども。
まあ、何らかの反応を示すクダリくんはいい。しかし私にとって問題は、ノボリお兄ちゃんだ。お兄ちゃんは相も変わらず、表情も声色も変えずにいつもの台詞を言い切った。ただ淡々と事務的に。きっと私の隣に誰が立っていても、"普通の男の子"と"普通の恋愛"をしてさえいれば特に何も口出ししないのだろう。だって、"お兄ちゃん"なんだから。
"そのやり方じゃ、ダメだよ。"
ふと、クダリくんの言葉を思い出す。クダリくんは、もしかして知っているのだろうか。私のしている、この無意味な行動の理由を。…そう言えば、あれも確かこれくらいの季節で、このライモンシティだった。
『ねえノボリくん、この子紹介してよ!』
『…この子は、』
あの時の様に生温い風が纏わりついて、髪を顔に首に張り付けていく。ああ、気持ち悪い。
『幼馴染で…私の妹の様な子です。』
『そうなの、よろしくね!』
『…なまえ、こちらは、』
じわりと浮かぶ汗に、無駄に熱い自らの血液循環に、苛立ちが湧きあがった。
『私の彼女です。』
くだらない
(あてつけ。)
120905
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