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落とし主



明るさに、目を覚ました。のっそりと起き上がりカーテンを見ると、どうやら寝相で揺れてしまったのだろう、薄く開いている。明るさの原因はこれか。私はそっとそれを直そうとして止めた。時計は既に起床時間を指していたからだ。カーテンを完全に取り払い、窓を開けて風を入れる。今日もいい朝だ。朝直ぐに飲まなければならない薬を、ベッド脇の桐ダンスの上の缶から出す。ベッドに座り直し、ふと窓の外を見ると何時もの彼が見えた。

俯いて歩く彼の後ろを、ゴースがふよふよとついていく。何時も通り。私はそれを横目に吸入器に口を付けようとして、はっとした。朝の薬は錠剤だ。水だってちゃんと夜、ペットボトルで用意して置いたのだ。

少し慌てたためか、手が滑る。私の指は二、三度吸入器に触れたけれど掴めないまま、空を切った。


(あ!)


しかも吸入器は窓の縁で跳ね、通りにダイブ。かつん。着地点は例の彼の足元。声にならない声を上げていると、彼がこちらを見上げた。私はその前に慌ててカーテンに隠れる。


「あの…。」


小さく、しかし凛とした声色で彼が言葉を投げた。


「……。」


私は困りに困り、言葉を発する事も出来ずただカーテン越しに彼を見つめる。幼いとはいえ、寝起きで寝癖だらけの状態で男の子の前に出たくないと思う程度の羞恥心はあったのだ。

そんな私を知ってか知らずか(明らかに後者だろうが)、彼は私のうちの玄関に向かう。


(どうしよう、どうしよう…。)




100820




あきゅろす。
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