例のあの子
「マツバは女性に興味が無い。」
すっぱり。湯のみを置いてから唐突にミナキが言った。
「…、興味が無い訳ではないし、その言い方は何だか誤解を」
「噂だ噂。それも、その誤解の方が。」
自分でもしどろもどろだろうかと思う声でした否定は、ミナキの一言に迎撃される。噂って、…噂、え?噂?
「な…、え、噂って、どこで?」
「さあ。…この辺で?」
嘘だろう。そんな噂、一体どこから?それに信じるのかそれを。僕は頭を抱える。
「マツバが彼女でも作ればそんな噂直ぐになくなる。」
「…そんな事言ったって、彼女なんて作ろうとして作るもんじゃ…」
ミナキは湯のみを少し前にずらした。おかわりの意なのだろうけれど、その図々しい所作が何だか腹立たしい。その湯のみを引き寄せ、急須を持ち上げる。随分長くお湯を入れていたから、これは渋いのがでるぞ。理想の渋さはミナキが顔を顰める位だ。
「その考えが硬派ってやつなんだろうし、男に興味なんて間違ってもないんだろうけれど、女性に興味が無いのは事実だろう。」
「……。」
ミナキの言う通り、事実だった。いや、正確には、少し違うのだけど。無言の肯定をしつつ、湯のみをミナキに返す。ミナキは飲める程度まで温くなっているそれに口をつけ、少しだけ顔を顰めた。
「例のあの子が、忘れられないんだろ?」
「…、そうだよ。どうにも、ね。」
あの子とは十年程前に出会った、恐らく同じ年頃の女の子だ。彼女は突然現れ、そして消えた。
「どこに行ったんだろうな。」
「さあ…。でもどこに行っていても、僕の事なんかもう忘れてるよ。」
そう、彼女はきっと、…、絶対に僕の事など忘れてしまったろう。僕は耳を澄ますとまだあの声が聞こえると言うのに。
『やあ!僕はミケ!しっぽがキュートな三毛猫だよ!』
僕はこんなにも彼女の事を覚えているというのに。
100818
意外とマツバさんは若い説を
プッシュします!
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