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片想いの彼



誰が見ても分かる程に、彼女は狼狽えていた。だけど僕はそれに気付かない振りをして、手を伸ばす。


「ほら、かえてあげる。」


微妙な位置まで挙げられている彼女の手。そこに触れる寸前、僕の手は叩かれた。

ばちん、かしゃん。

軽い音を立てて時計が地面に落ちる。僕の手をはたいたのは、ヨマワルだった。


「…ヨマワル…」

「………。」


こら、ヨマワル!そんな言葉を期待したけれど、一向にそんな言葉は紡がれない。恐る恐る、彼女の方に視線をやってみる。

彼女は、真っ青になっていた。


「ごめん、僕、」

「!ううん、違う、違うの!」


僕はもうほとんど思考が働かなかない。溶けていく、どろどろに、溶けていく。

彼女が何かを言っているけれど、ちっとも頭に入ってこない。そんな中、鮮明に聞こえたのはいつかのミナキの言葉だった。


『初恋は実らないって言うからな。』


(初恋は、実らない…。)

じゃあ僕のこの気持ちは、どこにやったらいいんだろう。





110414




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