贈り人
「今、いい?」
振り返ると、先程まで一緒にいたマツバくんが玄関先からこちらを覗いていた。私が許可の意を示すと、縁側の方にゆっくりやってくる。何だか、様子が妙な気がした。何となく私は縁側から移動して、マツバくんの歩く距離を縮める。
「ジム戦、どうだった?」
「…一応、勝ったよ。」
「そっか…お疲れ様!」
マツバくんは本当に疲れた様に笑う。そんなに時間がたっていないから、バトルもあっさり終わったのだと予想していたのだが、違ったのだろうか。
「あのね、さっき言いかけたことなんだけど、」
「?」
さっき?そう言われて思い出す。ああ、あれか。確かに真剣な目をしていたから、何か重要なことだったのかもしれない。私は平静を装って、何?と聞き返した。
「どうしても今って話でもないんだけどね。」
そう言ってはにかんだマツバくんが、ポケットから可愛らしい包装紙を取りだす。ピンク色の、リボン。直ぐに贈り物だと気付いた。まずい。この状況じゃ、私宛に違いない。
「引っ越し祝い。今更かな、とも思ったんだけど…。」
予想通りの、私宛。どうしよう、そう思っていると、マツバくんが箱を差し出そうとしてやめた。安堵しそうになったが、ここまできて引っ込められる訳がない。包装紙が丁寧に剥がされていく。じっとそれを見ている間に、マツバくんは可愛らしい時計をその手に持っていた。
「それ、止まってるでしょ?」
にっこり微笑んだマツバくんに、青ざめる思いだ。それを知ってか知らずか、マツバくんは時計の留め具を外す。
「ほら、かえてあげる。」
優しく出された手に、後ずさりした。まずい、まずい。
どうしよう、まずい、まずいまずいマツバくんが笑うまずいまずいまずいまずいまずいまずい。ばちん、かしゃん。
110414
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