(手に負えない男)
立ち寄ったエンジュシティ。久し振り、と言う程期間は空けていないが、それでもやはり懐かしかった。すっかり紅葉の時期は終わりを迎えていて、陽を遮るものがなくなっていた。これからはどんどん寒くなる一方だろう。
どうせ今日も今日とて挑戦者はいないに違いない。そう思い、足をジムに向ける。しかし直ぐに目的の金糸の髪を見付けた。
「おい、マツバ!」
「! ミナキ…」
どうやら振り返った男――マツバは、見て分かる程に疲れている。
「どうしたんだ、マツバ?何だか疲れていないか?」
「…ああ、今日、ジム戦あったからかな…」
今日はジム戦があったのか、珍しい。なんてのんきに考えたが、直ぐに我に帰る。どう見てもただのジム戦程度の疲れ具合ではない。
「何か、あったのか?」
そう、マツバの肩を叩いた瞬間、むっとした空気が立ち込めた。ここは野外だ。にも関わらず、とんでもなく籠もった臭い。
異様。血の気が引いた。
「…何も。」
明らかな、嘘。
しかし問い詰めることは出来なかった。"こういう"事に関しては専門外だし、力になれるとも思わない。
「…で、こんなところで何を?」
「…、……」
「……?」
マツバは、目を逸らしたまま唇を引き結んだ。その反応の理由が分からず、首を捻る。
「…………っ、……!」
「…わ、悪かった!私が悪かった!」
見る見る内に泣きそうな顔になっていくマツバに、どうしようもなく焦った。大の男が泣くなとか言いたいが、(エンジュでのマツバのキャラを配慮すると!)言うわけにもいかない。
「マツバがどこにいようとマツバの自由だからな!そう、フリーダムだ!な!」
「……、ミナキ…」
「なっ何だ!?」
泣きそうなマツバなんかより、よっぽと私の方が情けない気がしたが、それには気付かないふりをする。
マツバを見ると、やっぱり眉を寄せたまま俯いていて、言おうか言うまいか迷っているようだった。どうした?そう問うより早く、マツバが口を開く。
「…僕は、……どうしたら、いいんだろうね…。」
「…は?」
途方に暮れたマツバの呟きは、理解出来なかった。それでも、マツバの疲れの原因がその一言であることは窺える。私は必死に頭を回した。
「こんなことになるなら、知らずに消えてくれたらよかったのに。」
そこで、気付く。
マツバから漂う臭気は、以前に嗅いだそれだということに。
私は、黙る他無かった。
「…じゃあ、僕は行くね。」
マツバをこのまま行かせていいのか考えたが、やっぱり私にはどうにもならないことだと首を振る。
泥の臭いが周囲を取り巻いていた。
110414
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