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馬鹿な子



「ヨマワル…」


零れた声が、震える。どうして、ヨマワルがここにいるの。紛れもない私の手持ちのヨマワルが、どうして。彼女はホウエンに置いてきてしまったはず。


「ヨマワル…?こんなところに?」


マツバくんの声にはっとした。そうだ、ここはヨマワルの生息地じゃない。ともすれば誰かの手持ちであることくらい当然わかる。そしてその誰かが私であることも。

誤魔化さなければ。私がヨマワルの存在に今気付いた事を。


「ま、マツバくんヨマワル知ってるんだ!」

「え?ああ、うん。」


ヨマワルに向いていた視線が私に戻された。私はヨマワルを呼ぶ。


「この子だよ、私が前言ってた手持ちの子。」

「え?」


私の右上にやってきたヨマワルを見た。ヨマワルは少しおろおろとしている。


「ホウエンに置いてきたんだけど、やっぱり寂しくて実家から送ってもらっちゃったんだ。」

「…ああ、そう言えばゴーストタイプが好きって…」

「そう!ゴーストタイプいいよね!昔…、」


まずい、そう直感する。焦りに始まる饒舌には碌な事がないと知っていたのに、口走ってしまった。その上、妙な所で止めて言い訳を考えている。こんなに分かりやすい動揺があるだろうか。


「昔?」


心なしかマツバくんの声が鋭くなる。私の心音が、高鳴る。


「昔、その、友達が…」

「……。」


マツバくんの目が私を射るように見つめた。呼吸が苦しくなった気がする。どうしようどうしよう、バレたら、どうしよう。私が、本当は―――


「むかし、ともだちがすきだっていってて。」

「友達って?」


マツバくんは会話している。ただそれだけ。なのに詰問されているような息苦しさに眩暈を感じた。


「しんせきの、子、…女の子、」

「…そう。」

「…うん。」

「…………。」

「…………。」


妙な静寂が訪れる。明らかに、私の受け答えは悪かった。けれどきっと、訂正すればする程怪しいに違いないし、訂正出来る程頭も回ってはくれないに違いない。一瞬、"この家に住んでた子が――"そう言おうとして止めた。だってそう言って私はどうしたいんだ。

だから、私は腕時計を見る振りをして、さも何か思いついたように言った。


「あ、私出掛ける用事があるから、そろそろ支度しなくちゃ。」


暗に、彼に帰れと、そう言っている。けれどそうでも言わないとこの場はもう凌げない気がしていた。予想した通りマツバくんは、ああじゃあそろそろ僕もジムに帰るよ、といって立ち去ったから、強引では
あったが間違えてはいなかったと思う。


時計が動いていない事を思い出したのはこの数分後。




(私って、馬鹿。)
110412




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