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三毛猫



かちゃ、エンジュシティの景観を損なわないために取り繕われた家に、不似合いなドアが小さく音を立てて開く。


「お母さん?」


ぽっかり空いた四角い空洞を見つめる。返事は、ない。その代わりに、ひょっこり小さな影が飛び出した。


「やあ!僕はミケ!しっぽがキュートな三毛猫だよ!」


可愛らしいぬいぐるみがこちらを見ている。思わず頬を緩めた。


「可愛いでしょ?」

「うん!」


そのぬいぐるみは袋状になっていて、そこにお母さんが手を入れ、何度もその猫の両手を広げたり閉じたりしている。ぬいぐるみだとわからない年ではもうなかったけれど、馬鹿らしいとかああそうだとか、そんな風に一蹴するような年でもなかった。


「くれるの?」

「よろしくね!」


お母さんは裏声を出しながらミケの右手を挙げた。


「これからは名前ちゃんが寂しくないように、僕が一緒に寝てあげるからね!」


ミケがお母さんの手を離れ、私の腕に収まる。手を入れて、何度も両手を動かしてみた。


「ありがとう、お母さん!」

「いーえ。ほら、窓をそろそろ閉めなさい。鬼が来る時間になるわ。」

「はーい。」


ミケを自分の枕元に寝かせ、窓を閉じる。お母さんがそろそろご飯だと言いながら部屋のドアを閉めた。それに返事を返してからカーテンに手をかけると、金糸の髪の少年が通りを通るのが見えた。やっぱり今日も疲れた顔。彼はいつも通り顔を上げる事もなく、静かに通り過ぎて行く。

彼はお母さんの言うような、鬼の子には見えなかった。だって彼は、音もなく歩く。私の知る絵本の鬼達は、人間を脅かす様に大きな足音と大きな動作で歩く。あの歩き方は、…、まるで自分を隠すような、そんな歩き方。あんなに目立つ綺麗な髪の色なのに、彼の輪郭は何時だって背景に滲んでいる。

私が見ていることも知らずに、彼は今日も通り過ぎて行った。小さな背中はもう見えなくなりそう。

私はミケを見る。彼はあのゴースと眠らないのだろうか。





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あきゅろす。
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