悪い子
『僕は、彼女は彼女だと思っている。』
酔い始めのミナキにそう言ったのは誰だ。そう言ってやりたかった。だって僕は、どうしてもあの子と名前を切り離して考えることが出来ていなかったから。
…いや、今も切り離せているかどうか怪しい。どうしても、彼女を意識してしまうし、目で追ってしまう。彼女の言動や態度も、好意があるのかないのかも、全てが気になってしまう。
「ゲゲッゲンガッ」
胡坐をかいた足の上に乗ってきたゲンガーの腹を指でなぞる。ゲンガーが楽しそうに笑った。
「はあ、いいよな、ゲンガーは。」
「ゲン?」
指を止めて呟けばゲンガーは少しこちらを振り返る。
「悩みが無さそうで。」
「ゲ!?ゲンガ!ゲゲ!ゲン!!」
心外だ!そう言ってるのだろう。ゲンガーは僕の足をバシバシと叩く。
「ごめんごめん。」
「ゲンガ、ゲゲッ」
ゲンガーは手を止めたものの、まだ少し腹立たしそうだ。
今度は頭を撫でながら、言葉を溢す。
「ゲンガーは、僕のことでいつも悩んでくれるからね。」
にんまり。ゲンガーが嬉しそうに笑った。実際、幼少の頃から共に過ごしているので大袈裟な話ではない。唯一あの子を知るのもこのゲンガーだけだ。
「はあ。」
ゲンガーの頭に顎を乗せて、溜め息。そして、目を閉じる。
今、あの子が僕の前に現れたとして、僕はどうするだろう?やっぱり、惹かれるのだろうか?
彼女に惹かれつつあるこの状況でも、あの子に惹かれるのだろうか?つまり、僕は彼女とあの子を繋げて考えているから、彼女に惹かれているのか?
それとも、あの子が現れたらあっさり興味が移るのだろうか?
「ゲンガ!」
「!」
ゲンガーの冷えた手が僕の頬を撫でた。どうやら、励ましているらしい。ゲンガーからすればまだ僕は幼い日のあのままなのだろう。
お返しに耳を撫でてやる。
「ありがとう。」
「ゲンガ、ゲンゲン!」
お礼を言うと、今度はゲンガーが妙に真剣な顔になった。ゲンガーは、賢い。僕の、"本当の"悩みを恐らく知っている。だけど、僕はゲンガーを膝から下ろす事でそれを無視した。
本当は、あの子が彼女じゃなければいいと思っている。
本当は、彼女に少しも惹かれていないと言えればいいと、そう思っている。
「ごめんね、僕は、知らないんだ。」
結局、全て気付かない振りを続ける。
101230
ただゲンガーと戯れて
欲しかっただけです。
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