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第三者



夢を見た。

小さなカバンに、最低限の荷物を詰める夢。それを持って、明日は船に乗るつもりだった。

久しぶり過ぎる土地に思いを馳せ、ふと気付く。きずぐすりやげんきのかけらの残りが少ない。

船ではバトルを挑まれるだろう。手持ちが一匹なのできっと回復アイテムはかなり消費するはずだ。

だから僕は財布を持って、彼女の名を呼んだ。


「××××、買い物に行こう。」


彼女の小さな手をとって、部屋を出た。

珍しく、幸せな夢。

さくさく、さくさく

僕は大好きな彼女の手を引いて、月明かりの下を気分よく歩く。

嬉しそうな彼女を連れて、明日僕は彼のいる場所へ行くのだ。


楽しみで楽しみで仕方のない、"夢"。











「名前は、手持ちいないの?」


彼女の家の縁側に腰掛けて、軽く問う。

年が近いだろうと言ったところ、やはり一つ二つ違う程度だったので僕らは敬語を取り払う事にしたのだが、呼び捨ては馴れ馴れしかったろうかと今になって少し不安になった。けれど彼女は気にしていないようで、普通に僕の質問に頭をひねっている。


「………、」

「………。」


しかし一向に返答はない。僕はそんなにも返答に悩む質問をしただろうか?イエスかノーの簡単な何気ない質問だと思ったのだが、失敗した。


「あの…答えにくかったら…」

「あ、ううん!一応手持ちはいるの!いるんだけど…」

「?」

「その、実家に置いてきちゃって…。だから今は手持ちがいないって事に、なるの…かなあ?」

「…それは、どうだろう?」


悩みどころといえば確かに悩みどころだ。ポケモンを持ってはいるけれど今手元にいない。ボックスと同じ考えで言えば手持ちとは言わないのかも。

ポケモンを持っているのに一匹も連れ歩かないのは珍しいことだとは思ったが、それよりも彼女のポケモン自体に興味が移る。しかし、どんなポケモンなの?そう言葉を繋ぐ前に彼女が言葉を連れ去る。


「あ、マツバくんはエンジュで何をしてるの?」

「え?…ああ、今は一応…ジムリーダーを…。」

「ええ!?す、すごい!!」


目を真ん丸くして驚く彼女に、思わず頬が緩んだ。


「すごくはないけど…」

「十分すごいよ!エンジュで一番強いってことでしょ?」

「うーん…どうだろう?」

「何タイプなの?」

「……。」


純粋に興味から瞳を輝かせる名前を見ると、尚更口は動かなくなる。

僕の扱うタイプは女の子に人気がない。いや、ない位なら構わないのだが、むしろ嫌悪される部類なのでこのように口が固くなるのだ。

…あれ、いつもなら女の子だとかは気にせず言えるのに。


「?」

「!えっと、ゴーストタイプ、なんだけど…」


じっとこちらを見つめたままの彼女に慌てて答えると、何故か彼女は更に瞳を輝かせた。


「ゴーストタイプ!いいよねっ!」

「!」

「あ、エンジュはゴースの分布場所でもあったよね!私のいたところ、ゴースいないんだあ。」

「そ、うなんだ。どこにいたの?」

「ホウエン地方だよ。」

「じゃあジュペッタとか、あとはヤミラミとかかな。」

「そうそう。」


予想外の反応に驚き、そして嬉しかった。彼女はゴーストタイプが嫌いどころか、好きらしい。安堵に胸を撫で下ろす。

ポン!ほっとしていた僕のベルトからボールの開く音。


「ゲンガッ!」

「ゲンガー。」

「!」


突然飛び出したゲンガーは僕と彼女を交互に見、それからにやにや笑って彼女を通り抜けた。


「わ!?」

「ゲゲゲッ」

「こら、ゲンガー。」

「ゲンガー!」


通り抜けたあと、そのままゲンガーは彼女の腕時計を指差す。その時計で時間がよく確認出来なかったので、自分のポケギアを取り出した。


「!」


思う以上に時間が過ぎている。そろそろジムの午前開放時間だ。


「あ、僕行くね。お茶ありがとう!」

「うん、よかったらまた話しにきてね。」

「ありがとう、またくるよ。」


僕が立ち上がり、彼女が立ち上がる。それからお互いに緩く手を振って、僕は彼女の家の敷地を出た。ゲンガーはしきりに彼女を振り返る。彼女が気に入ったのだろうか。


「ゲンガー、あんまり後ろ向いて飛ぶな。」

「ゲンガー。」


前を向いたゲンガーはそれでもなんだかそわそわとしている。イタズラ好きからくる落ち着きのなさはよくあることだが、こういったそわそわは珍しい。実は人見知りだったのだろうか。

さくさくと落ち葉を踏みならしながら僕も彼女のことを考えてみる。可愛らしい腕時計は、動いていなかった。逆さから見ているからだろうか?と初めは思ったが、よく見ても秒針は動いていなかったし、一時間以上遅れていたように思う。少し胸が痛んだ。

もし、大切な誰かからもらった時計で、外したくないものだったらどうしよう。…そこまで考えて、自嘲。

だったらどうしたと言うのだ。僕には何の関係もなく、気にすることでもない。

不自然にからからと渇く喉を押えて、俯く。


揺れる影をゲンガーが叩いて遊んでいた。





101110
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