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臆病者



マツバくんは話しかける度に微笑んで私の相手をしてくれた。嫌がる風もなく、面倒がるでもなく。嬉しくて嬉しくて、通る度に話しかけた。相変わらずマツバくんは俯いて歩いていたけれど、以前ほど疲れた表情ではなくなっていたので、それもとても嬉しかったのを覚えている。恐らく自惚れなのだけど、私と話すことで気分が楽になったこともあったのではと思っていた。

けれど、ある日を境にマツバくんは妙な態度をとるようになった。

私と話していて、笑ったかと思えば自分を戒める様に硬く口を結ぶのだ。それから少し俯く。私と会話することを嫌がる顔はしなかったけれど、なにか私に非があるような気がして少しだけ落ち込んだ。


もしかして、私はマツバくんを逆に疲れさせているのではないだろうか。


不安で仕方なかったが、それでも私はマツバくんが好きだったので何度でも話しかけた。――――そう、私はいつの間にかマツバくんに恋をしていたのだ。


だから私は、


私は本当はエンジュシティを離れたくなかった。

しかし、父の転勤と空気のいい土地に移るという話の前に私の幼く淡い恋心など無いに等しかった。


私は悩んだ。この恋心を打ち明けてしまおうか?それとも友達として連絡先でも交換しておこうか?どちらも私に出来るはずはなかった。マツバくんに好かれている自信はなかったし、何より彼が私と話す時に俯く意図がわからなかったからだ。本当は、嫌々付き合っていたならどうしよう。引っ越すと言った時、元気でねなんて笑顔で言われたらどうしよう。だから私は決めた。彼には告げない事を。


少しでも驚いてくれたらいい。


欲を言えば、あああんな奴がいたっけなんて偶に思い出してくれたらいい。


けれどひとつだけ、ひとつだけ聞いていこう。「マツバくんは、」


「僕と話して少しでも元気になれた?」


臆病な私の声が震えていなかったらいいのだが。





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あきゅろす。
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