(捜し人) 彼女がいないのです。 探しても、いないのです。 私を優しく撫でたあの手が恋しいのです。 彼女は私とあの場所へ行くのを楽しみにしておりました。だから彼女が消える訳がないのです。 彼女はあの場所を手に入れました。あとは彼女がおさまるだけでいいと言います。だから彼女が消える訳がないのです。 彼女の両親が私を彼女の所に連れていってやろうと言っておりました。けれど彼らは愚かです。連れていってくれずとも、私は初日についていったのですから。 はらはらと涙を溢す彼らを見ていたのですから。 そして私は知ったのです。彼女が出掛けたことを彼らは知らないことに。 私は彼らをおかしく思いました。彼女のいない場所で囁くように彼女を呼ぶのですから。 私は彼らを悲しく思いました。彼女がそこにいないことに気付けないのですから。 私は思いました。あの時飛び出して行っただろう彼女を見付けにいくのです。撫でてもらうのです。 そう決まれば早いものです。彼女の行くところはおおよそ分かっていますから、端からあたってみましょう。道筋に不安もありますが、一度行った道ばかりですので何とかなるでしょう。ならないのならば道を聞けばいいのですし。 私を呼ぶ声が聞こえます。彼女の両親は彼女がいる(と彼らが錯覚している)場所に私を連れていくつもりでしょう。けれど今回ばかりは無視をします。私のおやは彼らではないのですから。 私を呼ぶ声と、背後の扉が開く音が聞こえます。やあやあどうもおはようございます。私は彼のあの子の元へ行ってきますよ。しばらくは帰りません。次にお会いするときは彼女を連れているつもりですが、果たしてあなた方に気付いて頂けるでしょうか…。それだけが気掛かりでなりません。 私を呼ぶ声と、駆け寄る足音が聞こえます。逃げちゃうわ?誰が逃げると言うのでしょう。私はこんなにも彼女とこの彼女の家をだいすきだと言うのに! 気掛かりな事もありますが、ここで捕まってあげることは出来ませんので、お手を触れないようお願い致します。ああ、悲鳴をあげさせてすいませんね。 ではでは行ってきます。またお会いしましょう。 (そして私は窓から飛び出した。) 101018 ←→ |