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ずるい子



友達になった彼女は、とても優しい子だった。僕がそこを通る度にミケが顔を出すのだ。

彼女は体が弱いらしく、あまり外には出ないのだと思う。思う、と言うのは彼女は自分の事をあまり語らなかったからで、状況と、苦い薬が嫌だと一度だけ溢した愚痴から推測した。

他人と交わるのは上手だろうに、自由に外を歩けない彼女と、自由に外を歩けるのに、他人と交われない僕。お互いがお互いを補うような関係だった。彼女には言えないが、彼女の家が街の外れでよかった。歩き回れなくて、よかった。汚らしい考えだったが、心底そう思わずにいられない。


そしていつからだろう、僕は彼女に恋心を抱くようになっていた。









「マツバくん!」

「!こんにちは、ミケ。」


窓から降る声に顔を上げる。ミケが嬉しそうに揺れた。


「今日は少し早いね!」

「うん、ちょうど切りがよかったから…」


他愛ない話をやりとりする。ゴースが嬉しそうに笑う。いや、きっと僕の方が嬉しそうに笑っているのだろうけど。

この、ゴースをつれ歩く姿も街で怯えられる一つの原因だったが、彼女はゴースに可愛いと言い放ち、易々と受け入れた。確かにゴースは可愛い、しかし、このゴースは僕がつれ歩くことで畏怖の対象とされてきたし、女の子がゴースを可愛いと言うのも珍しかったから、とても嬉しかった。

彼女は、僕の常識を端から壊す人間だった。

僕が鬼の子と呼ばれていることを知っていながら、僕を他の人間がするように敬遠したりはしない。それどころか積極的に話し掛けてくるし、話も上手だった。人の感情を汲み取るのに長けた子だったのだ。そしてそんな彼女に友達として扱われることは僕の自信にもなった。妙なこの力さえ何とかすれば僕も人の輪に入れるに違いない。少しだけ修行も楽しくなった。

そんな時だった、彼女がこう言ったのは。



「マツバくんが元気になってくれたら嬉しいな!」



何を言ってるんだ。僕はもう元気だよ。そう思ってからはっとした。


『だからね、わた…僕が君を元気にしてあげたいんだ!』


彼女が初めに、そう言っていたことを思い出す。

もし、僕が元気になったら?彼女が心配いらないと判断したら?

幼い、考えの足りない思いがぐるぐると駆け巡る。

彼女を失う訳にはいかない。その思いだけが駆け巡る。


「そう…。」


僕は少しだけ俯いた。

ずるい、そんなこと百も承知だ。それでも僕は君を失わないためなら何だってするよ。だから君は僕をもっと心配したらいい。





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あきゅろす。
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