友達
今日も彼の金糸の髪は、目を隠している。よかった。そう思ってはっとする。私はカーテンに隠れているのだから、どちらにしても彼から見えることはないのだ。それでもやっぱり息を殺して、俯いて歩く彼が私の声を聞き取れる位置にくるのを待つ。
ざり、ざり。
深呼吸をして、思い切り勇気を吐き出した。
「やあ!僕はミケ!しっぽがキュートな三毛猫だよ!」
ぽかん。そう形容するのがぴったりだ。突然降った声に驚いて顔をあげた彼は、目も口もまん丸に開いていた。
「…よろしくね!」
「……。」
相変わらずぽかんとしっぱなしの彼の後ろで、ゴースが大笑いしている。とても、恥ずかしい。
「…君の名前は?」
居たたまれずに発した言葉は質問だった。これ以上、一人で言葉を発することには耐えられなかったからだ。しかし、果たして彼から返事は返ってくるのだろうか?彼が口を開く。
「僕は、…、マツバ。」
彼――マツバくんは、少しだけ口角をあげた。たったそれだけが私にはとても嬉しく、さらに言葉を繋げる。
「マツバくんはエンジュの子なの?」
「うん、そうだよ。」
「どうしていつもこの道を通るの?」
「お寺に修行に行ってるんだ。」
「修行?どんな?」
「お経を読んだり…」
「すごいね!大変だね!」
そう言ってから質問しかしていない事に気付き、口を噤んだ。それから恐る恐る彼を窺うと、幾分か明るい表情になっているように思えて、気恥ずかしくも嬉しさでいっぱいになる。
「マツバくんは、いつも疲れてるでしょ?」
「!…?」
「だからね、わた…僕が君を元気にしてあげたいんだ!」
忘れかけていた口調を慌てて正す。
「僕と友達になってくれないかな!」
勇気を振り絞り、マツバくんに言葉を投げ掛けた。するとマツバくんは少し間を空けたあと、にっこり笑って大きく頷いてくれたのだ。
「よろしくね。」
「…っよ、よろしく!」
やはりマツバくんは、鬼の子ではないらしい。彼は私のとびきり優しい友達になってくれたのだから。
100916
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