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お願い



「この部屋を自由に使ってくれてかまわないよ。」

「あ、ありがとうございます…。」


通された部屋は、リビングに隣接する一室で、タンスも布団もある。家具はシンプルだが、小物は女性が好みそうなものだ。自由に、ということは彼女さんが来るなんてことはなさそうだし、積もった埃なんかをみても暫く使っていないことが窺える。…もし。もしこれが私によるものなら、私達はどれほど仲の良い友人だったのだろう。


「それから隣の部屋は私の部屋だから、何かあればすぐに言ってね。」

「は、はい!」

「じゃあ先に他の部屋を案内しようか。」

「お願いしま、」


カタカタカタ


「…何の音でしょう?」


荷物を下ろすと直ぐに小さな音が聞こえてきた。耳を澄ますと、どうやらゲンさんの近くから聞こえている気がする。


「ああ、君の相棒達が君に会いたいみたい。」

「……私のポケモン、ですか?」


病院でも私はトレーナーとして旅をしていたと言われていたが、ポケモン達は私とは別にポケモンセンターに預けられていたため、ピンと来ていなかった。今はゲンさんが預かっているようだ。

どうしてかゲンさんはほんの少しだけ躊躇するような素振りを見せ、それからボールを三つ放つ。

ぽぽぽん

軽快な音と赤い光に包まれて飛び出した三つの塊は、私達が口を開く前に私の胸に飛び込んできた。


「っわ!」

「…ふふ、どうやらポケモン達も君が心配で仕方なかったみたいだ。」

「………えっと…、」


腕の中からこちらを覗きこむ三匹。


「ロゼリア、フワンテ、ルクシオ…ですよね?」

「そうだよ。」


入院中にも実感していたが、やはりスプーンやフォークといった名称に関する記憶には問題ないし、ポケモン達もその名称の記憶に属するらしい。


「ニックネームとか…。」

「大丈夫、ないよ。」


しかしさすがにニックネームまではその記憶に属さないので、過去の私がつけていなかった事に安堵した。


「あの…ごめんね、心配かけて…。」


記憶にないにしても涙目で見上げてくるこの子達のおやは私であって、相当な心配をかけていたのも私。戸惑いながらも短く声をかけると、中央のフワンテが首に巻きついてきた。


「ぷわわわーー!」

「うぶっ!ちょ、うわ!」


フワンテが顔に突進するようにすり寄ってきて、それと競うようにロゼリアとルクシオも一層くっついてくる。隙間から見えるゲンさんは困ったように微笑んでいた。そんな中、頭に響くような声がした。


「やめろ、名前様は病み上がりだ。」


ぴたり。頭に響いたと思っていたけれど、どうやらポケモン達にも聞こえていたらしい。みんな動きを止めている。


「お久しぶりです、名前様。」

「えっ…。」


その言葉と共に礼儀正しく一礼するのは青いポケモン――ルカリオだった。


「あ、お久ぶり…は違いますか?ゲン様。」


私が吃驚しているのを取り違えたらしく、ルカリオは首を傾げてゲンさんに会話を繋いだ。


「ああ、それもそうだが…多分、彼女は波動に驚いているんじゃないかい?初めて会った時もそうだったろう?」

「ああ…。」

「えっと…波動、ですか…?」


ゲンさんには私の疑問が伝わったようだから、この頭に響く声の正体は波動というものなのだろう。


「ルカリオは波動ポケモンと呼ばれていてね。彼らは波動という特有の力を使うんだけれど、それを使って人間と会話することもできるんだ。」

「…べ、便利ですね…。」


そう言うと、少しだけルカリオが誇らしそうにした気がする。しゃん、と背筋が伸びていた。


「さ、君達も一度ボールに御戻り。名前に部屋の案内だけしたらまた出してあげるから。」

「ぷわ!」


ゲンさんが私のボールをつかって三匹をボールに戻していく。


「よし。じゃあ部屋の案内をしようか。」


そう言って微笑んだゲンさんに慌てて頭を下げた。



お願いします!
(そんなに広くないけどね。)
(え、そんなこと…!)





120907
波導じゃなくて波動でいきます〜
一応ゲーム準拠ということで…




あきゅろす。
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