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再会




「っ!……、気のせいか。」


ラップ音がした気がしたが、ただの家鳴りだったようだ。普段から接することが多いのでついそっちにつなげてしまったらしい。職業病というやつに近いと思う。実際、ジムの仕事以外にそういった仕事を請け負うこともあるし。


「さて、今日の特集は!ずばり、彼氏と別れを考えた瞬間でーすっ!オータケさん、よーく聞いていてくださいねーっ」

「どういう意味ですかマリさん!!」

「では街角インタビューどうぞっ!」

「スルーですか!」


番組司会とコーナーの司会が軽く掛け合ってから、どこかのドラマで聞いたBGMと"ジョウト朝トク!!"のロゴ。この時間にテレビを見ることがあまりないので、とても新鮮だ。


「すいませーん!」

「はい?」

「"朝トク!!"の者なんですけど、ちょっとお聞きしていいですかー?」


ブラウン管の奥はどうやらコガネシティらしい。エリートトレーナー達にマイクが向けられる。


「あー、彼氏がポケモンバトル私より下手だとぶっちゃけ萎えますー。」

「あー!わかるわかるー!」

「えっ、もしかして経験あります?」

「ありますよぉ。」


その内容に胸を撫で下ろした。良かった、とりあえず今はまだ名前ちゃんに負け無しだ。ぼんやり見ていたはずがいつの間にか真剣に見入ってしまう、テレビの恐ろしさとはこれのことだ。次々と女の子達の色々な意見が流れていく。


「束縛がすごいとき!」

「すごい?」

「そう!何時までに家に帰れとか友達の家に泊まるなとか露出高い服着るなとか!!」

「一番酷かったのは?」


元々女性向けに作られている番組だが、これを名前ちゃんと二人で見た時を想像するとかなり気まずい。僕一人で見ていても流れる情報に一喜一憂し、妙な気遣いをしてしまう気がするし。チャンネルを変えた方がいいとは思うのだが、何せテレビの魔力をはね退けるのは至難の技だ。その上今、現段階で、” 彼氏と別れを考えた瞬間”とやらをいくつも覚えてしまっている。(つまりかなり見入っている。)

幸い、今の所まだ僕にずばり該当することは出ていない(と思うし、思いたい)。しかし、いつ自分に当てはまるものが出るのかと内心恐怖でいっぱいだ。そんな時、茶色いロングヘアーの女性にマイクが向けられた。


「明日仕事!って日まで夜求められちゃうと、体だけ?と思う。」

「ああー。」

「だってありえなくないですか。五時起きっつてんのに一二時頃布団入ってきて、まあそういう空気にしたがる訳ですよ。それも一度や二度の話じゃないですし。そういうの気遣えよ!っていう…、」


僕は本気の本気で胸を撫で下ろした。昨晩の僕の選択は間違っていなかったようだ。しかし、次の女の子のインタビューに心臓が凍りつくことになる。


「デートコースがいっつもお決まり!!」

「……!ごほっ、」


あまりの衝撃にお茶が気管に入りこんでしまった。噎せながらもテレビに耳を傾け続ける。


「一緒に居られるだけで嬉しい!とか言いますけど、内心そんな訳ないのは察して欲しいですよね!だって毎回毎回同じですよ!?どう思います!?」

「それは確かに……その彼氏とはまだ続いてるんですか?」

「まさか!デートにも彼氏にも直ぐに飽きちゃいましたよ!」

「……けほっ。」


胸をさすりながら名前ちゃんとのデートを思い返す。しかし、僕らのデートはまさに”お決まり”だった。エンジュの道を歩いたり、自然公園でバトルしたり、コガネシティでご飯食べたり。ああ、でも泊まり合いは偶に少しして…


「その上、ゆっくり遊びたいなって言いながらチョウジタウンの温泉ガイドをちらつかせたらどうなったと思います?」

「ど、どうなったんですか?」

「自宅デート!!あり得ないですよ!温泉ガイドがありながら、まとまった休みの日程を聞かれておきながら、自宅デート!?ふざけんなですね。」

「超キレてますね。」

「当然です!自宅デートする位なら日帰りで温泉とか、海水浴とか、色々あるじゃないですか!何故自宅?偶に行ってるし何もないし、マンネリ解消の糸口になるとは思えないんですけど。」

「ははは、まあデートに関するマンネリ解消を自宅で、は無いですね。」

「ですよね!!」


耳が痛すぎる。そうか、自宅、駄目か…。しかし僕は一応ジムリーダーなので、あまり遠出は出来ない。いや、他のジムリーダーはカントーに行ったり、逆にカントーから来ていたりするのだから一概にそうとは言えないが、少なくとも僕は無理だ。ジムトレーナーのイタコさん達は人生の先輩の様なもので、彼女達にジムを預けて遊びに行きますなんて中々言い出しにくいのだ。…しかし、だが、でも、……、


「…今度、チャレンジしてみようか、な…。」


そうだ、言い出しにくくて一度も言ったことがない、つまりやる前から諦めているのだ。それはなんだか情けない。勝手に僕が行けない行けないと思っているだけで、実はそんなことないかもしれないのだから。案ずるより産むが易し、という言葉を信じてみるのも悪くない。よし、今度日帰りでもいいから遠出の相談をしてみよう。

僕が一人決心した時にはもうテレビは別の特集になっていた。まだまだ名前ちゃんとの待ち合わせには時間があるので、今度はその特集を見て時間を潰そうと思う。どうやら次は熟年離婚問題らしいが、今の僕には本当に無関係過ぎる。しかしそれを見たいと思わせるのが、やっぱりテレビの魔力だ。そのまま統計グラフをぼうっと見ていると、僕のポケギアが震え出した。慌てて画面を確認、すると相手は番号を交換して以来一度も電話をしたことのない、ハヤトくんからの着信だった。何だか妙な感じがして一瞬とるのを躊躇ったが、長く待たせるのは失礼なので直ぐに通話ボタンを押す。


「もしもし?」

「あ、マツバさん、名前、います?」

「え?」


僕にかけておきながら第一声がそれか、とは言わないでおくけれど、正直いい気はしない。ハヤトくんは名前ちゃんとは所謂幼馴染というやつで、家族のように中がいいのもしっているけれど、こうもあからさまなのは頂けない。が、それを飲み込んでしっかり答えてしまうのが僕の性というやつである。


「今日はバイトだよ。」

「バイト?……もう今、働いてる時間ですか?」

「あー、多分、その頃じゃないかな。」


テレビの端に表示された時計を見れば、すでにコガネ百貨店の開店時間はすでに過ぎていた。朝一だったのだからとうに彼女は働いているころだろう。しかしそんなことを聞いてきて、ハヤトくんはどういうつもりなのか全然分からない。ただ、何だか焦っているような気がする。


「さっき、アカネから聞いたんですけど、」


アカネ、と言えば恐らくコガネジムリーダーのあのアカネちゃんだろう。どうやら名前と連絡を取りたいのはハヤトくんではなく彼女のようだ。


「まだ、コガネ百貨店が開店しないって、ちょっと騒ぎになってるみたいで。」


その一言に頭が一瞬白くなる。開店しないって、そんなはずはない。いや、仮にあったとして、…とかそんな事はどうでもいい。ただ、彼女のバイト先の様子がおかしい、それだけで僕の頭は白くなったのだ。


「…事件?」

「いえ…それがどうもわからないんですけど…」

「とにかくなあ!」


困惑したような彼の言葉を遮るように、元気な女の子の声が耳を突き刺した。(つまり若干、元気過ぎた。)「ちょ、」とか聞こえたので、恐らくその女の子――アカネちゃんがハヤトくんからポケギアを奪ったのだろう。


「電話口でぎゃあぎゃあ騒ぐんは面倒やし、百貨店がおかしいから来て欲しいっちゅうことです!」

「…わかった直ぐに行くよ。コガネだね?」

「お願いします。」


訛った敬語を最後に、ぷっつりと通話が切れた。名前ちゃんの置いて行った鍵を握り、マフラーを巻く。走りながら願うのは事件でありませんように、そして


彼女と再会
できますように

(心臓が痛いのは、)
(走ったからじゃない。)





100703
彼女が大変な時に
ワイドショーマツバ
のんきすぎる。




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