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キス




「もう行くの?」

「はい。」


布団から身を起こして鏡台に座る名前ちゃんに問い掛けると、コンシーラーで下唇だけ無くなった彼女が微笑んだ。


「起こしちゃいました?」

「いや、もうちょっと早く起きてたよ。」


布団から出て軽く伸びる。起きて直ぐに彼女がいるって幸せかもしれない。なんて浸っている間に名前ちゃんの唇は完全に肌に溶け込んだ。それから今度は可愛らしいピンクが彼女の唇を形取った。それを眺めてこくりと唾を飲み込む羽目になる。

実は昨晩、明日はゆっくりしようと名前ちゃん宅に泊まることとなった。しかし、夜に彼女のバイト先であるコガネ百貨店から電話が入り、朝一のバイトが急に休むこととなったのでシフト変更して欲しいと頼まれる。勿論、人の良い彼女はそれをあっさり了承した。(逆に午後は時間が空くということもあり。)朝一でバイトに向かう事になった名前ちゃんに大人ぶりたい僕が手を出せるはずもなく、健全な夜を過ごした訳だが蛇の生殺しとはまさにあの事である。そのせいか、朝だというのになんだか背中がざわざわするのだ。もう一度唾を飲んだ。名前ちゃんはネックレスを着けようと奮闘している。


「貸して。髪、纏めてて。」


その指先からチェーンを奪い、繋ぎ合せる。彼女は自分の髪を両手で二つに分けるようにして抑えていた。白い項が可愛い。僕の唇は自然と引き寄せられる。


「ん、」

「!…っマツバさん!」


白い項に一つキスを落とすと、彼女は慌てて振り返った。真っ赤だ。熱を持った名前ちゃんの頬を両手で包む。驚いたのだろう彼女は口を噤んだ。


キス、していい?
(それ以上はしないから。)
(ね、いいでしょう?)





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