抱っこ
「ゲンガー、さいみんじゅつ。」
「…!」
サンドパン、デルビルと男の手持ちを倒し、最後はさいみんじゅつで彼を眠らせる。さらりと終えてしまったバトルに、やっぱりマツバさんはジムリーダーなのだと再認識した。
「…ありがとう、ゲンガー。」
マツバさんがゲンガーを引っ込める。それと同時に腰につけた3つのボールの1つ、ダークボールが震えた。自分だって出来たぞ、そう言っているのだろうか?ボールを撫でると大人しくなる。
「名前ちゃん、」
「はい。」
マツバさんが振り返った。それから少し驚いた顔をして、微笑む。泣かないで、そう言って私の頬を撫でた。
「え?」
「目、赤くなっちゃうよ。」
「あれ、」
気付くとぼろぼろと涙がこぼれている。拭い切れないと判断したのか、マツバさんは自分の胸に私の頭を押しつけた。少しだけ香るお線香がまた涙を誘う。
「……、っ」
「怖かった?」
「…た、ぶん…っ」
「多分?」
ぐずぐずと泣く私の頭を撫でながら、マツバさんが小さく笑った。とんとんと背中を叩いてくれるものだから、調子に乗って擦り寄る。(あ、化粧、移っちゃうか、も…)
「…あ、そろそろハヤトくんとアカネちゃんが来るみたい。」
「え?」
「二人が協力してくれたから来れたんだ。」
「そう、なんですか…」
お礼を言わないと。そう思ってから疑問。どうしてそろそろ来ると分かるんだろう…?マツバさんを見上げると、そっと体を離された。物足りない気持ちを感じる私を余所に、マツバさんは自分のマフラーを解く。
「これ、巻こうか。」
「?」
寒くはないですよ?そう思ったのが伝わったのか、マツバさんが苦笑した。
「スカート。」
「え、あ…っ」
慌ててスカートを握る。するとマツバさんは少し屈んで、切れた場所を押さえ隠すようにマフラーを巻いてくれた。
…けれど、これでは歩けないんじゃないだろうか…。そう思うと同時、マツバさんが私を再び抱き締める。と思いきや何故か私の足が宙に浮く。
「んっ?」
「平気?」
微笑んで私を覗き込んだマツバさんに、条件反射で何度も頷いた。マツバさんがおかしそうに笑う。
これは、所謂…
お姫様抱っこ
ですよね!?
(……!!)
(じゃあ行こうか。)
101021
マツバさんは
お線香臭そう
あれ、香水じゃないよね?
え、お線香じゃね?みたいな。
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