ぎゅって
「なんだあの男…!ちくしょう!」
男は思い切り動揺していた。窓ガラスが割られたせいだろうか。マツバさんのポケモンのねんりきか何かだろうが、男にはそんなことは関係ない。"今いる場所が攻撃された。安全ではない。"それだけが男の問題であり、そう思わせることがマツバさんの狙いだろう。人は誰だって不安全な場所にいたいとは思わないはず。だから男が次に口にする言葉はきっと…
「立て。移動だ。」
場所を変える。そしてそれが私の逃げるチャンスで、助けられるチャンス。部屋となるとどうしても入る場所がある程度決まっているし、人質がいては奇襲などもかけにくい。
「はい…。」
私は言われるまま、ゆっくり立ち上がった。
「どこへ…?」
「ここじゃねえ部屋だよ。いいからさっさと歩きな。」
やはり男は激しく動揺している。これなら、隙をみて逃げられるかもしれない。
『名前ちゃん、待ってて。』
マツバさんの顔が浮かぶ。強く言い切ってはいたけれど、きっと今のこの男以上に不安でいっぱいなんだろう。声のずっと深いところで揺れていた。
マツバさんは時々、私が本当にそこにいるのか確かめる時がある。そんな時は決まって、そういう声だった。無口な訳ではないけれど饒舌でもないマツバさんが、私の名前を何度も呼ぶ。細い指が私の指を素通りして、手首を握る。垂れた目が、私の影を確認する。そして私を唐突に抱きしめる。だからそんな時はこう言うのだ。
『私、ここにいますよ。』
それから一拍置いて、マツバさんはわかっていると笑う。
知っていますか、マツバさん。実は私も、その時マツバさんの心臓に耳を当てて確かめているんですよ。マツバさん、マツバさん。ねえ、だから、
はやくぎゅってして
(恋しくて)
(堪らないんです。)
100820
久しぶりですが話進んでない!
マツバさんのポケモンのねんりき
かどうかはご想像におまかせ。
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